表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/11

もしかして、左右逆?

 椅子に座り、ゲーミングPCを見つめる健人と肇。

 二人は、格闘ゲームファンタズムバトルのキャラクター選択を行っていた。

 PCのディスプレイには、健人が使いたいと主張するキャラクター、トウカ・サカザキが映し出されている。


 黒髪のポニーテールに、赤い袴と袖の無い白い着物。そして腰には三つの長さの鞘、いわゆるファンタジー世界の女剣士なのだが、彼女の剣の構え方が、また個性的だった。


「トウカちゃんかー。腰の左に、物干し竿の異名を持つ、2メートルオーバーの納刀状態の大太刀。そして高く上げられた左手には、二刀流なのに防御用の短刀じゃなくて、普通の長さの太刀。インパクトあるよねー」


「そうなんですよ先輩! 納刀状態の大太刀に右手を添えながら、左手で抜き身の太刀を持つ。納刀と抜刀のアンバランス。この構えが嫌いな男の子は、居ませんよ!?」


 健人はトウカ・サカザキを、コレでもかと言う位に、熱く語り始めたのだ。

 そう、最弱キャラと言われようが、このキャラを選択した理由。

 彼は、トウカ・サカザキと言うキャラが、好きで好きでたまらなかったのだ。


「しかも原作を忠実に再現した、アウトレンジからの大太刀で相手をいたぶりつつ。踏み込んできた、者には、左手に持った抜き身の太刀でバッサリ! このキャラをデザインした人、原作のファンタズムボウルを読み込んでいますよきっと」


 肇の身近にも、キャラ愛を抑えられない狂人が居る為、健人のキャラ選択を止められないと、彼女は直ぐに理解をした。 


「まあ、格ゲーやってくのに、キャラ愛はモチベーションに影響するし。分かった、とりあえず動かして見てよ」


「了解です」


 このゲーム、ファンタズムバトルの原作キャラを動かせると、ウキウキでレバーレスコントローラーを手にし、彼女を動かすのだが。



「↓↘→キックで、抜刀準備。キックボタンは離さない、ですよね」


 画面に映るトウカが、空いた右手を鞘に添え抜刀準備にかかる。


「そそ。で、バッサリと切りつけたいタイミングで、キックボタンを離せー」


 画面のトウカは、鞘から2Mオーバーの大太刀を抜き、トレーニング専用の動かない相手キャラをバッサリと切りつける。コレには健人もご満足、とはいかなかった。


「うわ、使いづらい……。大太刀の発生が遅いし、攻撃後の納刀が遅すぎるせいで、硬直が長い。こんなのトウカじゃない」


 原作とはかけ離れた、もっさりとしたモーションを見て、眉間にしわを寄せる。


「仕方ないじゃん。原作通り再現したら強すぎて、ナーフされたんだし」


 ブツクサと文句を言いながら、トウカ動かす健人。

 必殺技を粗方試し、通常技も試したのだが予想以上に使い為、溜息を漏らす。


「だから言ったじゃん。最弱だって。じゃあ次だけど、移動しながら攻撃してみようか」


「OKです」


 使用技を把握し、実戦さながらの移動しながらの攻撃に移ったが。

 肇は健人のプレーを見て、頭を抱えそうになるのを、グッと堪えていた。

 と言うのも、先ほど図書室で見せていた格ゲーセンスの塊の様な動きが、まるで見られなかったのだ。


「どうしたの、健ちゃん? さっきと動き違うじゃん」


 先ほどまで無かった、移動をしながらの必殺技に入力ミスが目立ち、レベル3のCPU相手にも健人は苦戦を強いられる。


「何か原因があるはず、ここと図書室何かが違う? 考えろー、あたし」 


パソコンのキーボードを見て、肇は原因を察した。


「もしかしてー、方向キーの位置が左右逆?」


「はい」


「家庭用の、左手が移動のコントローラーも握った事無い?」


「我が家は、パソコンのストームゲームオンリーです。だから、キーボードとマウス以外の操作は、殆ど経験がありません。なので、左手で方向入力をした事が無いんです」


 彼の言葉に、流石の肇も頭を抱える。しかも困った事に、このゲームはメーカーがコントローラーを売り出したいと言う思惑がある為、PC対応ゲームにも関わらず、キーボード操作が非対応なのだ。


「終わった。三人で行く、全国の夢が……方向入力とボタン入力が左右逆と言う、あんまりな理由で」


「スミマセン」


 このあんまりな事態に、お通夜の様な雰囲気を作り出す二人だが、思わぬ所から救世主が現れる。


 コトリと、デスクの上に置かれたのは、特注の左右逆のレバーレスだ。

 コレを使えと、スキンヘッド店長がボソリと呟き彼は業務に戻って行った。


「ああーテンチョーが、光り輝いてる見える」


 受け取ったレバーレスをPCに繋ぎ、早速トウカを動かす健人。するとどうだろう、先程までのギクシャクした動きが消え、キャラが画面内で躍動し始めたのだ


「健ちゃん、行けるよ! とりあえず、対戦だー」


「はい、やってみます」



 左右逆のレバーレスを手に入れ、早速店の常連と対戦する健人だが、トウカを手足の様に操り、次々と白星を積み重ねていく。


 右手の大太刀の抜刀で、相手をアウトレンジからなぶりつつ、踏み込んで来た相手には、左手の抜き身の太刀でバッサリ。現バージョンで、トウカの理想とされる動きを、始めて数時間の初心者がやってみせたのだ。


「うわ、健ちゃんマジでスゴイ。大太刀の隙を消す為に、ちゃんと抜刀のフェイントを混ぜてる。長物を振り回すと思っていた相手には、良く効くんだよねー。大太刀の溜めフェイント」


 予想以上の強さに、肇は喜びはしゃぐ。それに対して、健人は淡々と、冷酷な人斬りの様に、黙って相手を斬りまくる。


 一息つくため、対戦を終えた頃には、連勝を30まで伸ばしていた。

 

「流石に、ギブ。ちょっと休憩させてください」


「OK、じゃーあたし飲み物買ってくるよ。何飲みたい?」


「うーん、ジンジャーで」


 健人そう告げると、嬉しそうに肇はカウンターに向かっていった。そして彼女と入れ替わる様に、健人は数人の男共に囲まれていた。先程まで対戦をしていた、常連メンバーだ。


「あ、あのー。僕、何かやらかしました……」


「お前ら、コイツを絶対逃すなよ!」


「タップリと、可愛がってやろうぜ」


「逃げ道は潰したよな」


 店の常連メンバーは、ニヤニヤと笑いながら健人を見つめている。


「あ、人生終わった」


 いわゆる、いにしえのゲームセンターで見られた光景とでも言うべきか。彼らは健人の逃げ道を潰しつつつ、ジリジリと近づくのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ