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恋愛

作者: 敬重感泣

昔書いたのが出てきたので供養

誤字脱字あると思うのであったらごめんなさい

 少年は娯楽に飢えていた。高校に入ったものの、波もなく、ただ怠惰に日々を消化して過ごしていた。そんな日々も最初は悪くないと思っていた少年も、半年もすると暇を明確に意識するようになった。何かをするといっても田舎には娯楽施設などなく、皆部活に勤しみ暇つぶしに付き合ってくれる当てもない。少年はいつも通り散歩をすることにした。空は高くそこら中に虫が飛んで、月も見える。代り映えしない美しい景色に酔いしれながら少年は田んぼ沿いを歩いてゆく。靴紐がほどけたら止まって結びなおし、また歩く。足が痛くなったら少し休憩し、また歩く。少年のそんな歩き続ける姿は、散歩、暇つぶしへの執念すらうかがえる。

 歩いていると、いつもと同じ風景に違和感が存在した。青年である。白いワンピースを着た青年が道路の真ん中で田んぼを眺めていた。青年の肌は異様に白く髪は墨のように黒かった。まだ五月なのに真夏のように照り付ける太陽が青年の首筋に汗を浮かばせる。長く外にいるのか、肩のあたりは日焼けして赤くなってきている。肩に下げたカバンから水の入ったペットボトルを取り出すと少し口に含みまた歩き出す。その足取りは少年と同じように何らかの執念に突き動かされているようである。しかしその足取りはどことなく不安定で、そして寂しげであった。

 この青年の格好はあまりにも場所と不釣り合いであった。だからだろうか、少年は青年のことが気になって仕方がなかった。少年は、柄にもなく知らない人に話しかけることにした。

「どちらからお越しですか」

少年が青年の横顔にそう問いかけると青年は少し時間をおいて

「それを探しに来たんですよ」

と少し困ったように眉を上げた。面倒くさそうな人間であるがそこもまた魅力的に思えた。

「じゃあなんでここなんですか?」

「別に特別ここに来たわけじゃないんです」青年はやはり少し困ったように続けた「自分の居場所を探しに歩いていたらここに着いたんですよ。」

「じゃあ?」

「どうなんだろう。それも探すことにします」青年は言った「この辺に喫茶店などはありませんか?少し疲れちゃって・・・」

「じゃあ少し行ったところに休憩所のようなところがあるので案内しますよ」そう少年が言うと青年は「ありがとう」と言って明るく微笑んだ。

少年と青年は目的地に着くまで話を途切れさせることなく話した。好きな食べ物や、学生生活のことなど初対面な彼らには話題は充分にあった。

「じゃん!ここなんですどうですか?」

少年は興奮気味に紹介する「といっても駄菓子屋の前にベンチがあるだけなんですけどね」

青年も大げさに驚いて見せると、なんだかおかしくて顔を合わせて二人で笑ってしまった。

ひとしきり笑うと、二人はアイスをなめながら同じベンチに腰を下ろした。少年と青年の話はだんだん最初の話に近づいていった。何故だかだんだん人生論的な話に流れていく。その過程で少年は青年がこのような行動をとった原因を理解した。そしてなぜだか少し胸が締まる思いがした。そしてそのモヤモヤを晴らすように一音一音丁寧に話す。

「居場所はそこにいる時間でも客観的に見るものでもなくて自分が居心地が一番いいところじゃないですか?それに一つである必要もないんじゃないと思います。」

「そんなことはわかってるの!」青年は怒鳴った「でも周りは、大切な人たちは納得してくれないの!」涙で顔面をぐちゃぐちゃにしながら、喉を震わせながらも力強い叫びは少年を絶句させた。しばらくすると青年は立ち上がってどこかへ歩いていく。少年は反射的に待ってと大きな声を掛けてしまった。青年は勢いよく振り返ると地面に向かって小さな声で「少し化粧直しをするだけよ」と言って駄菓子屋に入っていった。

 青年が出てくるまでの間、少年は必死に青年を呼び止めたことが急に恥ずかしくなって土いじりを始めた。少年が三つ目のオブジェクトに取り掛かり始めた頃に青年が帰って来た。青年はいきなり怒鳴ったことについてしきりに謝っていたが、少年にはさした問題ではなかった。

 少年はおもむろに青年の方を体ごと向くと、ゆっくりと話し始めた。

「さっき言った言葉は取り消しません。」少年は大きく息を吸って続けた「もしそれでもあなたが無理だというのなら私があなたの居場所になります。」

すると青年は目を見開き動きを止めてしまった。静かな時間が流れた後、「ありがとう。ごめんなさい」青年は少年の目を見てはっきりと答えた。

 当然のことながら少年は深い傷を負ったが、どこか誇らしさもあり、大いに清々しかった。

 青年は少年の長く墨のように黒い髪の毛を優しくなでると立ち上がり優しく微笑み、大きくターンをした。最初見た時よりも幾ばくか大股で、少し音を立てて歩いてゆく。その後ろ姿は戦場に行く戦士のような雰囲気をまとっていた。


「どちらからお越しですか」

青年の広い背中に向かって少年は少し大きな声で問い掛けた

「自分の家からよ」

やはり青年は少しためらってからそう言って優しく微笑んだ

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