表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アイをトル  作者: 冬夜風 真愛
50/54

50話


 それからは当たり障りのない話が続いた。

 好きな教科や好きな給食のメニューなど、さほど盛り上がることもなく、ただただ山道をひたすらに歩き続けた。


「見えてきたよ!」


 山に囲まれた道の奥に見えてきたのは海だった。


「実は私ね、あまり海行ったことなくて……」


「僕も」


「え! ほんと? それは良かった!」


 久しぶりの海に僕もテンションが上がった。

 気付けば言葉を発していた。



「走ろうよ」



 そいつは驚いた顔を見せる。


「えっ、意外と北野くんもテンション上がってんじゃん。いいよ、じゃあ海まで競争ね」



「競争なんてしたら危ないよ。ほら、手繋いで一緒に行こ?」



「へへっ。北野くんにも男らしいとこあるんだね」


 僕達は手を繋いで海まで走った。

 ここまでの暑くて長い道のりのことなんてさっぱり忘れて、目の前のオアシスを目指し、一生懸命足を前に出した。

 小学五年生の男女二人が、見知らぬ山を越え、太陽の強烈な日差しに耐え、まだ見ぬ世界に心弾ませて走り続けた。


「到着~!」


 平日だからか砂浜には僕達しかいない。貸し切り状態だった。


「すご~い!」


 僕は海を見つめながら返答する。


「とっても綺麗だね」


 果てしなく続く海と真っ青な空の相性は抜群に良い。



「水冷たいかな? ねぇ、北野くん触ってみて~」


「僕が? まぁいいけど」


 履いていた学校指定の運動靴と白い靴下を脱ぎ、波打ち際まで歩いた。

 砕けた貝殻や枝の分かれた流木に気を付けながら慎重に。

 しかし、あと少しで海水に触れるって時に、後ろから誰かが僕を押した。

 誰が押したかなんて確認しなくてもすぐに分かる。

 だって、この砂浜にいるのは僕とあいつだけなんだから。


 倒れるように海へ飛び込んだ僕を見てそいつは笑った。


「あはははは。北野くんビショビショじゃん!」


「おい。何すんだよ!」


「ごめんごめん。そんな怒らないでよ~」


 『非暴力・不服従』を唱えたあのガンジーでさえ、こんなことをされたら怒るに決まってる。


「で、どう? 冷たい?」


「冷たいよ。君も入ってみたらいいじゃん」


「そうだね」


 彼女も僕とお揃いの靴と、くるぶしが見える短い靴下を脱いで、僕の待つ波打ち際まで歩いてくる。

 僕は腹立たしさといたずら心がふつふつと込み上げてきて、こっちに歩いてくる彼女に冷たい海水を掛けてやった。


「うわ~。冷た~!」


 彼女を怒らせるつもりでやった行為のはずが、すごく嬉しそうに笑ってやがる。


「なんでそんな楽しそうなの?」


「だって、ここ海だよ? 北野くんも楽しいでしょ?」


「こんなに濡れてなかったらね」


「へへっ」


 彼女も勢いよく海に飛び込んだ。

 その反動で跳ねた海水が僕に掛かる。

 彼女の自由奔放さには呆れを通り越して、もうどうでもよかった。

 

 それからは海でできることを全部やった。

 泳いだり、砂浜を走ったり、穴を掘ったりと、二人で遠足というイベントを満喫した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ