5話
下駄箱で上靴からスニーカーに履き替え、校門に向かって歩く。
なんとなく校舎の方を振り返ってみると、校舎に大きな横断幕が垂れ下がっていることに気付いた。
確か昨日まではなかったと思う。
〈男子バドミントン部 県大会準優勝〉
ここの男子バドミントン部がそこまで強いなんて、今初めて知った。
辞めて正解だったと胸を撫で下ろす。
その横には〈女子掃除部 全国大会出場〉の横断幕もある。意味が分からなかった。まず、掃除がしたくて入部するやつなんているのだろうか。その部活の疑問点を挙げればいくらでもある。
もう一度その横断幕を見てみた。
「掃除部」の前に『女子』とついていることが余計に面白い。
男子掃除部なんてのもあるのだろうか。男らしいゴリゴリの掃除スタイルとか?
考えれば考えるほど、笑いが込み上げてくる。
この学校は少し変わっている。
どちらかというと、勉強よりも部活に力を入れるタイプの学校で、部が数え切れないほどあるらしい。大学のサークル的な感じで、部を勝手に立ち上げることができるのだ。
中には『ユーチュー部』や『映画鑑賞部』、『陰キャ部』なんてのもあると噂で聞いた。
直接誰かから聞いたわけではない。盗み聞きという技で間接的に聞いたのだ。
それにしても、陰キャ部なんかに入ったら、もうそれは本当の陰キャではないだろ、と鼻で笑ってしまう。やはり帰宅部こそが真の陰キャに相応しい。
校門を出てすぐ右の道には桜が列をなして咲いている。
そんな桜並木を歩いていると、ふと頭に遥香の顔が浮かんできた。
彼女は何部に入ったのだろうか。
ズボンの右ポケットからスマホを取り出し、遥香の連絡先を探した。
学校では話す方だが、頻繁に連絡を取り合うほどではない。
とはいえ、連絡先はすぐに見つかった。
――― 何部に入ったの? ―――
トーク画面を閉じる前に既読がついた。
慌ててスマホの画面を閉じる。
すぐに既読をつけたら暇なやつだと思われるのではないかと、反射的に体がそうしたのだ。
ピロリン
スマホの通知音が鳴り、暗かった画面が光る。
――― 新しい部つくったよ~! ―――
「えっ?」
予想外の答えに、つい声が出てしまった。
ただ、遥香らしいとも思った。
しかし、新たに作ってでもやりたい部活とは何なのだろうか。
自分なりに考えても答えは一向に分からないままだ。
仕方がない。
僕はすぐに既読をつけて、遥香に返信した。
――― 何部を作ったの?(笑) ―――
僕は早く既読がついてほしいと思った。
スマホを閉じるなんてことはもうしない。
またすぐに既読がついた。
こんなにもワクワクするのは久しぶりだ。
既読になってからほんの数秒で返信がきた。
僕はその文字を見たとき不覚にも笑ってしまった。
――― 作詞部 ―――