49話
小屋を出ると、また容赦のない太陽の光が僕らを射す。
自分の存在を知らせるように鳴くセミの声は心なしか悲しんでいるようだった。
「見て! あれ!」
僕の隣を歩くそいつは、勢いよく前方を指差した。
指の先には、僕達が数分後に通るであろう何の変哲もない道路が続いている。
「ん? 何もないじゃん」
「いや、よく見てよ! こんなに暑いのに水溜まりがある!」
「あるわけないでしょ。えっと、君って馬鹿?」
「あはは。北野くん意外と厳しいなぁ」
辛辣な言葉さえも笑って捉えるこの人が本当によく分からなかった。
「ごめん。馬鹿は言い過ぎた」
「全然いいよ。北野くんのこと知れるし」
「僕のこと? 知ってどうするの?」
「教室じゃあずっと本読んでるし、クラスのみんなとあんまり喋らないから謎なんだよね」
「まぁ。そっちの方が落ち着くから」
「ふ~ん。私とは真逆の人だ」
それは僕も感じていた。
彼女はクラスメイトと分け隔てなく話す人だ。
男の子とも女の子とも笑って話をしている、優しくて人気者のイメージが強かった。
「てか、なんで僕だったの?」
「何が?」
「一緒に抜け出す役が僕で良かっ――」
「あ、本当だ~。全然水溜まり無いじゃ~ん」
彼女は僕の言葉を遮るようにそう言った。
水溜まりのように見える蜃気楼は、まだ先に見えている。
しかし、彼女は不自然にも僕の質問を切り上げた。
まるで元々水溜まりが無いことを知っていたかのように――。




