47話
全員が並び終わると、まずはいちご農家のおじいちゃんから、作っているいちごについての説明があった。
その8割が自慢話で、真上から射す強烈な太陽の暑さと相まって頭がぼーっとした。
話が終わると、ようやくビニールハウスの中へ入ることが出来た。
緑の中にぽつぽつと大小様々の赤があり、それがいちごだと気付いたときに初めて、いちごは木から生るんじゃないんだと知った。
前の人から回されてきたプラスチックの容器。
二つのくぼみがあり、片方にはすでにたっぷりと練乳が入っていた。
それを手にすると、普段クールを気取っている僕でもワクワクと胸が高鳴った。
「右が練乳で左がいちごのヘタを入れるところですよー。地面にヘタを捨てないようにねー」
その先生の言葉を合図にいちご狩りがスタートした。
みんな満面の笑みを浮かべ、大きないちご目掛けて散らばっていく。
僕もビニールハウスの端に生っているいちごを狙って、足を踏み出した瞬間、僕の右腕を誰かが掴んだ。
「今がチャンスかも」
あいつだ。
「え、本当に抜け出すの?」
「うん。ほら、行くよ」
僕の腕を強引に引っ張り、光り輝くいちごから遠ざけていく。
一瞬にして僕はビニールハウスの外に連れ出された。
外にはバスの運転手さんがスマホを見て時間を潰しているようだ。
バレないように小走りで、乗ってきたバスの陰に身を隠した。
「走るよ! 準備はいい?」
「や、やっぱりやめとこうよ。こんなの……」
僕は掴まれた手を振り払った。
「男なら覚悟決めなさい!」
耳元で発せられたその言葉に驚いて、僕は持っていたプラスチックの容器を下に落としてしまった。
僕によって消費される運命だった練乳が地面に飛び散る。
なぜだろう。土の上に散乱した練乳を見て、いちごをたらふく食べられるあのビニールハウスへ戻りたいという気持ちが減少していった。
いちごという果物は練乳の有無で「価値」が変わることが分かった。
「しょうがないなぁ。分かったよ」
覚悟を決めたというより、もうどうでも良かった。
別に元々遠足を楽しむつもりじゃなかったのだから。
「よし、じゃあ行くよ!」
不敵な笑みを浮かべるそいつは、すでにプラスチックの容器を持っていなかった。
その後は地獄だった。
バスで通った山道を彼女のペースでただひたすらに走らされる羽目になる。




