45話
僕はビニール袋から、クッキーを取り出した。
チョコチップの入った10個入りクッキーだ。
おばあちゃんの家によく置いてあり、手を洗う前にまずそのクッキーがあるか確認するぐらいには好きだった。
「ねぇ、それ私にもちょうだい!」
その声の正体は、隣で寝ていたはずのあいつだった。
「ご、ごめん。起こした?」
「いや違う。私ねチョコが大好きで、匂いに釣られて起きちゃった」
目をキラキラさせたそいつはニコッと笑った。
「そうなんだ。全然あげるけど、チョコなんて食べて大丈夫なの?」
「大丈夫だよ。チョコは車酔いに効くって聞いたことあるし」
「へー」
僕は軽く相槌を打ってから、クッキーを1枚手渡した。
「やった~。ありがと!」
数分前の彼女からは想像できない程テンションが高い。
たかがクッキー1枚でこんなに幸せそうな顔ができるとは。
「いっただっきまーす」
両手で掴まれたクッキーが大きな口に吸い込まれていく。
「これ美味しいね」
「でしょ?」
こんな美味しいクッキーを知っていた自分が少し誇らしかった。
おばあちゃんに感謝だ。
その後はいちご農園に到着するまで会話はなかった。
彼女は眠りにつくこともなく、ただずっと窓の外を眺めていた。
僕に話しかけてきた内容は、席の交代とクッキーの入手だけ。
彼女の最初の印象は、自己中な車酔い女という最悪なものだった。




