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アイをトル  作者: 冬夜風 真愛
45/54

45話


 僕はビニール袋から、クッキーを取り出した。

 チョコチップの入った10個入りクッキーだ。

 おばあちゃんの家によく置いてあり、手を洗う前にまずそのクッキーがあるか確認するぐらいには好きだった。


「ねぇ、それ私にもちょうだい!」


 その声の正体は、隣で寝ていたはずのあいつだった。


「ご、ごめん。起こした?」


「いや違う。私ねチョコが大好きで、匂いに釣られて起きちゃった」


 目をキラキラさせたそいつはニコッと笑った。


「そうなんだ。全然あげるけど、チョコなんて食べて大丈夫なの?」


「大丈夫だよ。チョコは車酔いに効くって聞いたことあるし」


「へー」


 僕は軽く相槌を打ってから、クッキーを1枚手渡した。


「やった~。ありがと!」


 数分前の彼女からは想像できない程テンションが高い。

 たかがクッキー1枚でこんなに幸せそうな顔ができるとは。


「いっただっきまーす」


 両手で掴まれたクッキーが大きな口に吸い込まれていく。


「これ美味しいね」


「でしょ?」


 こんな美味しいクッキーを知っていた自分が少し誇らしかった。

 おばあちゃんに感謝だ。


 その後はいちご農園に到着するまで会話はなかった。

 彼女は眠りにつくこともなく、ただずっと窓の外を眺めていた。

 僕に話しかけてきた内容は、席の交代とクッキーの入手だけ。



 彼女の最初の印象は、自己中な車酔い女という最悪なものだった。



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