4話
それからというもの、僕は願っていた静かな学校生活を過ごせていた。
家に帰って、母に「今日は何したの?」なんて聞かれるけど、母に話すほどの面白いエピソードなんて一つもなかった。だから「友達とカラオケに行ってきた」と言う。
母に心配されたくはないから嘘をつく。これが僕なりの優しい正義だった。
「楽しそうね。良かったわ、祐が友達と馴染めて」
そうやって嬉しそうな顔をする母を見ると、少し胸が痛む気がするがこれでいいのだ。
部活は、興味があったバドミントン部に所属した。
正直、バドミントンなんて遊びの部活だと思っていた。
入部していきなり、体力づくりという名目で走らされた時、とりあえず明日は部活を休もうと思った。
今、僕に与えられた選択肢は二つだ。
『幽霊部員になる』か『退部する』かだ。
三日ほど考えたが、『退部する』を選択した時のメリットの方が圧倒的に多かった。
バドミントン部を辞めると決めた次の日。六限目の世界史の授業終わり、職員室へ向かった。
部活に行こうとしている生徒達が、僕の横を足早に通り過ぎていく。楽しくもない授業から解放されたからか、みんなウキウキ気分が表情に溢れ出ている。
職員室に着くと、偶然バドミントン部の顧問の森田先生が出てきた。
「あっ、森田先生。バドミントン部一年の北野です」
「おー。どうした?」
「僕バドミントン向いてないと思ったんで、入部したばっかりですけど辞めます。すみません」
「ああ、そうか。分かった。またいつでも帰ってきていいからな」
「はい。ありがとうございます」
世界史の授業中はノートも取らず、ひたすら辞めるための口実を考えたのに、顧問の返答があまりにも呆気なくて驚いた。一時間みっちり考えた割に、結局安易な理由になってしまってはいたが、退部できてとりあえず一安心だ。