33話
「あれは絶対付き合ってるでしょ」
「やっぱりそうだよね」
「うん。結構分かりやすかったな」
「ほんと。美男美女でお似合いカップルだね」
「そうだな」
遥香も遠藤のことをイケメンだと思っていたらしい。
お世辞の可能性もなくはない話だが、多分本音なのだろうと思った。
「よし、じゃあ本題に入るね」
「ん、本題って何?」
「さっきの祐が作った曲のこと」
遥香はさっきまで見ていた僕のスマホを返してくれた。
「あー。どうだった?」
一応感想を問いかけてみたものの、やはり恥ずかしい。
感想をすぐにでも聞きたがった遥香とは正反対だ。
「とっても良かったよ。歌詞にぴったりのメロディーだなぁって思ったかな」
「お、それは良かった」
「なんかピアノいいね。祐が上手いからっていうのもあると思うけど」
「いやいや、久しぶりに弾いたから全然上手くできなかったよ」
「そうかなぁ。でも本当に感動した。私の書いた歌詞にメロディーが付いたことがとても嬉しかったの」
目を輝かせながら遥香は言った。
決してお世辞を言っているようには見えなかった。
「べた褒めじゃん」
「祐だって私の歌詞めちゃくちゃ褒めてくれたでしょ!」
「さぁ。そうだっけ?」
僕は遥香と話していて気付いたことがある。
それは、彼女との会話の終わりは毎回笑顔で終わることだ。
僕も遥香も別に面白いことを言っているわけではない。
だけど、自然と笑ってしまっているし、何より彼女と話していると楽しいのだ。
「そうだ! 祐に宿題出していい?」
「えー。内容によるかな」
「簡単だよ。祐にも作詞をしてきて欲しいの」
「断ります」
即答。考える必要もないくらいに。
「なんでよ! 祐も作詞部の一員でしょ!」
「やるまでもないよ。絶対センスないもん」
「やってみないと分かんないじゃん。大切なのは挑戦することだよ」
言い返す言葉が見当たらなかった。
正しいのは完全に遥香だからだ。
僕は今、与えられた目標から一瞬で逃げようとしてしまった。
「やらない」や「できない」「やりたい」と言葉にするのは簡単なことだ。
難しいのは行動に移すこと。挑戦することだ。
眠っている才能を呼び起こすことが出来るのは自分しかいない。
挑戦して失敗することが損失なのではなく、挑戦せずにアクションを起こさないことこそが自分の人生における損失なのだと僕は思う。
僕は宿題をする覚悟を決めた。
ただ、言い訳だけはさせてほしい。
僕の片隅にある小さなプライドを守るためにも。
「冗談だよ、遥香。やるに決まってんじゃん」
「な~んだ。冗談かよぉ」
「でも、僕もこだわって作りたいんだ。だから少し時間が欲しい」
「提出期限を長めに欲しいってこと?」
「そう」
「それは全然いいよ。時間をかけた方が良いものが出来るもんね」
言い訳が裏目に出たようだ。
完成品のハードルを自ら上げてしまうという大大大誤算。
もう後には引けなくなってしまった。
その後も一時間近く部活は続いた。
僕は書いては消しての繰り返しで、結局一文も書けなかった。
真面目にやればやるほど言葉というのは出てこないものだ。
隣にいた遥香でさえAメロまでしか書けておらず、改めて作詞の難しさを身に染みて感じた。




