30話
写真フォルダから、僕の部屋の一部が映った動画を遥香に見せる。
「これ祐の部屋?」
「そうだよ。ピアノでこの歌詞に曲を付けてみた」
「えっ! もっと音量上げてよ!」
僕は音量を一つ上げる。
「いや、一つじゃ全然聞こえないよ」
もう一つ上げる。
「馬鹿なの? もっと上げないと全然聞こえないって」
遥香は馬鹿にするように苦笑いをして言った。
「結構恥ずかしいんだよ。いざ聞いてもらうってなると」
「大丈夫だよ。ほら、貸して」
遥香は強引に僕の手からスマホを取り上げた。
そして音量を最大まで上げ、再生ボタンを押した。
基本的にカラオケ屋というのは、既存の曲を歌うための場所のはずだ。
それなのに、僕達はそこで新しい曲を作詞から作曲までしようとしている。
今この部屋に響き渡っているのは、スマホから聞こえてくる僕の下手な歌声とピアノの音色だ。
恥ずかしすぎる。
遥香は集中して画面を凝視している。
恥ずかしさが僕の中のキャパシティーを超えそうになり、一旦部屋を出てコーヒーを淹れに行くことにした。
マグカップを片手に廊下を歩いていると、見覚えのある顔を見つけた。