27話
今回もここで少し沈黙を作ろうとした。
しかし、この前と違うのは「場所」だった。
カラオケ店と音楽室では雑音の差が激しい。
この場所では僕の思っている沈黙は作れなかった。
「二曲目が見たいって思った」
僕を見ている遥香の顔が一瞬で曇ったのが分かった。
「ほう? というと?」
「だから、それぐらい遥香の歌詞にセンスを感じたってことだよ」
「あっ、そういうことか!」
「普通分かるでしょ」
「祐の言い方分かりにくいんだもん。もっとストレートに言ってくれたらいいのに」
「はいはい。とっても良かったです」
「あー、すぐそんな態度とるなぁ祐は。じゃあ、どこの歌詞が一番良かったか教えて?」
なんて欲しがりなやつだ。
しかし、僕も作詞部に入った身だ。
チームとして結果を出すには、仲間同士で意見を言い合うことが大切だと何かの本で読んだことがある。
「まぁ全部好きだけど、一番良かったのはサビの歌詞かなぁ」
「やっぱりサビか~。私もお気に入り」
「なんか刺さったんだよな」
【 僕の目の前には右と左の分かれ道だ 人生を決める大きな選択
間違えないように少し座って考えようか
大切なのは失敗しないことさ ゴールに早く着けばいい
ゴールの先にある何かを探しに 僕は僕を信じて進むだけ 】
一般的にサビは反復される。
一番のサビも二番のサビも歌詞がほとんど変わらないのが主流である。
なぜそれが定番化しているのか。それは作詞家にとってサビの歌詞こそが世の中に一番伝えたい想いだからだ。
最も曲が盛り上がるサビで何度も同じ言葉を使って、聞いている人の頭の中にインパクトを残す策略。
遥香の歌詞もまさにそれだ。僕もその策略にまんまとハマってしまった。




