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アイをトル  作者: 冬夜風 真愛
25/54

25話



「えっ」


「でもこの現実は誰がどんな選択をしていても変えられなかった」


「う、嘘でしょ……」


 僕は俯いて、首を横に振る。


「私のせいだ」


 さっきまではパラパラと降る程度の涙だったが、突然スコールのような涙が地面に降りしきる。


「違う」


 僕は彼女の言葉を強く否定した。


「私が無理やり祐を呼び出したから……」


「違うんだ。もし昨日歌詞を読んだ時に遥香を起こして感想を伝えたとしても……昨日の夜に電話で伝えていたって、今日の朝に雨が降っていたって、この現実からは避けられなかったんだよ」


「でも……」


 そう言って遥香は俯いた。

 今頃になって雨が降り出した。天気というものは本当に空気が読めないようだ。


「僕は……」


 頭の中に、母との思い出や遥香との出来事がフラッシュバックする。


 そして、遥香が書いたあの【空歌】の歌詞も。


【 暑い夏の朝 テレビから聞こえてくる時刻のお知らせ

  僕の部屋の時計より一分早い

  携帯は部屋の時計と同じ時刻を指していた

  不確かな時間を教えてくれる携帯持って家を飛び出す

  もしかしたら まだ別の答えがあるかもって

  そう信じて走り出したんだ

  何が正解で何が間違っているのか

  大きいものか多いもの 信じるべきはどっちなんだ 】


 サビ前のこの歌詞が示す意味は深くて重い。

 だからこそ僕に響いたのかもしれない。

 俯いた遥香に、僕は泣きながらも笑顔を作ってこう伝えた。




 「僕は遥香と出逢えて本当に良かった」




 ありきたりな言葉だけど、これが僕の本心だった。


 遥香の涙は、雨と合わさって地面に落ちた。



「私も祐と出会えたこととても嬉しいよ」



 いつもの優しい笑顔を作り、彼女はそう言った。

 スコールの後に待っていたのは、優しい笑顔という名の快晴だった。

 雨のち晴れ。彼女は自分自身でそれを鮮やかに表した。


 久しぶりにお互いが笑いあっている。

 彼女の笑顔を見て、僕は決心した。




 これからはどんなことがあっても遥香と笑っていようと。






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