25話
「えっ」
「でもこの現実は誰がどんな選択をしていても変えられなかった」
「う、嘘でしょ……」
僕は俯いて、首を横に振る。
「私のせいだ」
さっきまではパラパラと降る程度の涙だったが、突然スコールのような涙が地面に降りしきる。
「違う」
僕は彼女の言葉を強く否定した。
「私が無理やり祐を呼び出したから……」
「違うんだ。もし昨日歌詞を読んだ時に遥香を起こして感想を伝えたとしても……昨日の夜に電話で伝えていたって、今日の朝に雨が降っていたって、この現実からは避けられなかったんだよ」
「でも……」
そう言って遥香は俯いた。
今頃になって雨が降り出した。天気というものは本当に空気が読めないようだ。
「僕は……」
頭の中に、母との思い出や遥香との出来事がフラッシュバックする。
そして、遥香が書いたあの【空歌】の歌詞も。
【 暑い夏の朝 テレビから聞こえてくる時刻のお知らせ
僕の部屋の時計より一分早い
携帯は部屋の時計と同じ時刻を指していた
不確かな時間を教えてくれる携帯持って家を飛び出す
もしかしたら まだ別の答えがあるかもって
そう信じて走り出したんだ
何が正解で何が間違っているのか
大きいものか多いもの 信じるべきはどっちなんだ 】
サビ前のこの歌詞が示す意味は深くて重い。
だからこそ僕に響いたのかもしれない。
俯いた遥香に、僕は泣きながらも笑顔を作ってこう伝えた。
「僕は遥香と出逢えて本当に良かった」
ありきたりな言葉だけど、これが僕の本心だった。
遥香の涙は、雨と合わさって地面に落ちた。
「私も祐と出会えたこととても嬉しいよ」
いつもの優しい笑顔を作り、彼女はそう言った。
スコールの後に待っていたのは、優しい笑顔という名の快晴だった。
雨のち晴れ。彼女は自分自身でそれを鮮やかに表した。
久しぶりにお互いが笑いあっている。
彼女の笑顔を見て、僕は決心した。
これからはどんなことがあっても遥香と笑っていようと。




