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22話
僕は多少の落ち着きを取り戻せていると勝手に思い込み、病院を飛び出して、なんの魅力もない街を歩き始めた。
行く当てなんて何もなかったし、街並みを見るわけでもない。
ただ、母との思い出だったり、母に言われたことを思い出しながら歩いた。
街中を泣きながら歩いている人は、なぜか浮いているように見える。そういうものだ。
だから僕は下を向いて歩いた。
それが逆に心配を倍増させるなんて、今の僕には分からなかった。
ドンッ
何かとぶつかってしまったようだ。
道に捨てられた煙草の吸い殻を数えながら歩いていたから、前方からやってくるその何かに気付かなかった。
「あ、すみません」
小さな声で謝り、顔を上げると、そこにいたのは心配そうに僕を見る遥香だった。
「北野くん、大丈夫? どうしたの?」