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アイをトル  作者: 冬夜風 真愛
21/54

21話



「お母さん…………」



 僕から漏れたその声は、あからさまに悲しみが滲み出ていた。

 毎年僕の誕生日に母からのプレゼントがあった。

 直接僕に欲しいものを聞くのではなく、何気ない会話から母なりに考えて買ってきてくれる。

 だから、毎年プレゼントが楽しみだった。


 母は僕へのプレゼントを買った帰り道で事故に遭った。


 『もし僕の誕生日が明日じゃなかったら』とか『バドミントン部に入ったことを言っていなかったら』とか、取り返しのつかないことばかりが頭に浮かんでくる。


 一時間、部屋にあった固い椅子に座っていた。

 ふと制服が涙でビショビショになっていることに気付いた。

 部屋を見渡すと、警察官が居なくなっている。気を遣って部屋の外に出て行っていたらしい。


 ガラガラガラ

 

 部屋に入ってきたのは、僕のおばあちゃんだった。

 眉を寄せて心配そうな顔でこちらを見ている。


「おばあちゃん。お母さんが……」


 涙をこらえたおばあちゃんは覚束ない脚で僕に近づくと、そっと抱きしめてくれた。


「祐くん、大丈夫大丈夫……。お母さんはずっとあなたを見守ってくれるから」


 その優しい言葉は僕の心にゆっくりと届いた。

 やはりおばあちゃんの匂いは落ち着く。


 その後、おばあちゃんは母の冷たい手を握り、静かに泣いていた。

 「痛くなかったかい?」とか「ちょっとの間待っててね」と、目を開けることのない母に向かって話しかけ続けた。

 当然返事が返ってこないことは分かっているはずだ。


 

 受け入れたくない気持ちが現実より先行してしまっているのだ。


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