21話
「お母さん…………」
僕から漏れたその声は、あからさまに悲しみが滲み出ていた。
毎年僕の誕生日に母からのプレゼントがあった。
直接僕に欲しいものを聞くのではなく、何気ない会話から母なりに考えて買ってきてくれる。
だから、毎年プレゼントが楽しみだった。
母は僕へのプレゼントを買った帰り道で事故に遭った。
『もし僕の誕生日が明日じゃなかったら』とか『バドミントン部に入ったことを言っていなかったら』とか、取り返しのつかないことばかりが頭に浮かんでくる。
一時間、部屋にあった固い椅子に座っていた。
ふと制服が涙でビショビショになっていることに気付いた。
部屋を見渡すと、警察官が居なくなっている。気を遣って部屋の外に出て行っていたらしい。
ガラガラガラ
部屋に入ってきたのは、僕のおばあちゃんだった。
眉を寄せて心配そうな顔でこちらを見ている。
「おばあちゃん。お母さんが……」
涙をこらえたおばあちゃんは覚束ない脚で僕に近づくと、そっと抱きしめてくれた。
「祐くん、大丈夫大丈夫……。お母さんはずっとあなたを見守ってくれるから」
その優しい言葉は僕の心にゆっくりと届いた。
やはりおばあちゃんの匂いは落ち着く。
その後、おばあちゃんは母の冷たい手を握り、静かに泣いていた。
「痛くなかったかい?」とか「ちょっとの間待っててね」と、目を開けることのない母に向かって話しかけ続けた。
当然返事が返ってこないことは分かっているはずだ。
受け入れたくない気持ちが現実より先行してしまっているのだ。




