20話
部屋に設置された白いベッドに誰かが寝ている。
それが一目で母なのか認識できなかった理由は、顔の位置に白い布が掛かっていたからだった。
ベッドに近づき布をめくろうとしたとき、自分の手が震えていることに気付いた。
この布を取ってしまったら、僕の幸せな日々が終わってしまう気がしたからだろう。
薄い布を下から上にめくった時、まず口元が見えた。
信じたくなかった妄想がその瞬間に確信へと変わった。
ここに寝ている人は、やはり僕の母だった。
声が出なかった。
頭の中に『絶望』の二文字が突然現れて、そこにいた『思い出』や『愛情』を追い払っているみたいに。
一粒、二粒と目からこぼれる涙が、母の顔に落ちていく。
大好きな母との別れはあまりにも突然で、呆気ないものだった。
色鮮やかだった幸せな世界が、白黒の錆びついた世界へと変わっていくことは明らかだった。
「北野祐さん。お母さまが運転していた車の中にこちらがありました」
感情を見せない警察官が白い大きな袋を渡してきた。
僕はその袋を手に取って中身を見る。
涙でよく見えなかったが、すぐにそれが何か分かった。
中身はバドミントンのラケットだった。