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19話
日楽病院に着いた時、僕は汗だくだった。
学校からその病院までは走っていける距離だった。
病院のエントランス前には警察官が立っていて、僕は身だしなみなんて整えずに話しかけた。
「すみません。母が事故でこの病院に搬送されたって聞いたんですけど」
「北野祐さんですか?」
「そうです」
「それでは私についてきてください」
電話をかけてきたのはこの人だろうか。
僕は彼の声を聞いても分からなかった。
自動ドアを通り過ぎ、独特な匂いのするホールを抜ける。
歩いているうちに、だんだんと現実味を帯びていく。
この病院は十階まであるらしいが、母の居る部屋は一階だった。
「こちらの部屋です」
僕は何も分からない。
こんな経験を今までにしたことがないから、母とどんな顔で会えばいいのか、なんと声をかければいいのか、まったく分からなかった。
『お母さん。心配させないでよ』
僕は元気な母の顔を見て、こう言うと
『心配かけてごめんね。私は大丈夫よ』
笑いながらそう言ってくれる母の姿が脳裏に浮かんだ。
しかし、現実はそう甘いものではなかった。