18話
僕のスマホが鳴った。
画面に表示された名前は「お母さん」だった。
「ごめん。ちょっと待って」
僕は遥香にそう言って、母からの電話に出た。
「もしもし。急にどうしたの?」
「あっ、もしもし」
頭の思考回路が一瞬停止した。聞こえてきた声が想像していたものとは全く違ったのだ。
「えっ。誰ですか?」
「警察のものなんですが」
母の携帯電話から警察が電話を掛けてきた。
この状況を理解しようと思ったのだが、頭が回転し始める前に僕の耳に衝撃的な言葉が飛び込んできた。
「あなたのお母さまが事故に遭われました」
顔も体格も知らない、警察と名乗る男から発せられたその言葉。
僕の胸の鼓動はどんどん速くなった。
「お母さまは先ほど日楽病院に搬送されました」
僕が聞き取れたのはこれだけだった。
電話が切れた後も僕の体は動かない。
この状況を理解することに集中しすぎて、体を動かすことを忘れていた。
「どうしたの? そんな固まって」
横で待っていた遥香は、僕の顔を見て心配そうに言った。
僕は遥香の声で我に返り、勢いよく椅子から立ち上がる。
家から持ってきたリュックも持たずに、音楽室を飛び出した。
「ちょっと待ってよ! どうしたのよ」
後ろから遥香の声が聞こえたが、僕は何も言わず無心で階段を駆け下りた。