17話
「てか、今日吹奏楽部は部活じゃないの?」
僕は遥香に聞いた。
「いつも大ホールで練習してるらしくて、音楽室は使ってないんだって~」
「そうなんだ」
「早く部員集めて、作詞部で音楽室を確保しないと」
彼女も食べ終わったようで、一緒に紙皿とフォークをゴミ箱へ捨てに行く。
何も捨てられていないゴミ箱にチョコレートと生クリームが付着した紙皿が堆積した。
「さぁ。そろそろ感想でも聞こうかな!」
驚くほど大きな声で遥香はそう言った。
「あー。先に言っとくけど」
「なになに?」
「作詞部入ることにしたわ」
「え~! 本当に?」
「うん」
「めっちゃ嬉しいんだけど!」
「遥香一人じゃ寂しそうだからね」
「絶対嘘じゃん。 本当の理由を教えなさい!」
何やら他の理由があると踏んでいるらしい。
「ほんとだって」
「も~。気づいてないと思うけど北野くんの嘘分かりやすいんだからね」
「いやいや、嘘じゃないから」
「はいはい。でもこれから一緒に頑張ろうね!」
「うん」
満面の笑みを向ける遥香に僕は控えめに何度も頷いた。
「もっとテンション上げていこうよ~。せっかくの記念日なんだからさぁ」
「なんの記念日なんだよ」
「作詞部に二人目の部員加入記念」
「ふっ。ネーミングセンスの欠片もないな」
「あ~、今鼻で笑ったでしょ! 北野くん性格わっる~」
遥香は目を細めてそう言った。
僕はそこで会話の流れを止めて、音楽室に並べられているパイプ椅子に座った。
遥香も僕の横の椅子に座ってきた。
体重が軽そうな割に、僕よりギシギシと椅子を鳴らせた。
「それで、私の歌詞の感想は?」
音楽室の窓から見える景色は面白みがなく、ただ白い雲が空を漂っているだけだった。
「遠慮なしで思ったこと言っていいの?」
「え、なんか怖いな」
「じゃあやめとく?」
「いや、聞きたい。北野くんが感じたことは全部正直に教えてほしい」
「分かった」
僕はあえて少し長めの沈黙を挟んだ。
音を楽しむための音楽室で、なんの音も流れない時間。
遥香はキラキラした目で、僕から発せられる感想を待っている。
しかし、その沈黙を破ったのは僕でも遥香でもなかった。
プルルルルルル プルルルルルル