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アイをトル  作者: 冬夜風 真愛
16/54

16話



「北野くん、お誕生日おめでと~!」



 遥香が特上の笑顔で、僕にそう言った。音の正体はクラッカーだった。


「えっ? 誕生日?」


 僕はスマホで今日の日付を確認する。


【五月四日】


「ちょっと待って。僕の誕生日は明日だよ」


「え~~! 嘘でしょ!」


「ほんと。五月五日」


「そうだったっけ? まぁいいじゃん。どうせ明日会えないんだし」


「そうだけど」


 クラッカーを鳴らすために使われた火薬の匂いが鼻にまとわりつく。

 この匂いは臭いと言われがちだが、僕は意外と好きである。

 お祝い事でしか使用する機会がないからか、この匂いを嗅ぐとおめでたい気持ちを味わえる。


「ケーキも買ってきたよ。美味しそうなやつ」


「まじで? 今ちょうどお腹空いてるかも」


「食べたい?」


 遥香はニコッと笑って、ケーキの箱をカバンから取り出した。

 この前テレビでも紹介されていた人気店のケーキだった。


「うん」


「も~。北野くん可愛いな~。はい、どうぞ」


「ありがと」


 開口部に貼られた丸いシールを剥がして箱を開けると、いちごのケーキとチョコレートのケーキが入っていた。


「二つ入ってるよ?」


「一つは私のやつに決まってんじゃん、食いしん坊かよ」


「あ、え、じゃあ遥香はどっちが食べたいの?」


「うーん、北野くんが先に選んでいいよ」


 遥香は気前よくそんなことを言っているが、チョコレートケーキが食べたいはずだ。というより諸事情があって、彼女がチョコレートケーキしか食べられないことを僕は知っている。

 だから、僕が選ぶことのできるケーキは実質一つしかなかった。


「じゃあ、いちごの方」


「私はチョコレートのケーキか」


 ニヤリと笑う遥香の顔を見て少し腹が立った。


「紙のお皿とフォークも買ってきたから、勝手に使って。そこの机の上にあるから」


「ありがと」


 僕は封が開いていない紙皿を開けて、二枚取り出した。

 一枚は僕のケーキの分、もう一枚は遥香のケーキの分だ。

 皿に自分のケーキを載せて、フォークでケーキを一口サイズに切った。

 一番上でバランスを取っていたいちごが皿の上にポロッと落ちる。

 いちごは最後に食べるタイプでも最初に食べるタイプでもなく、食べたくなったら食べるという特にこだわりがないタイプである。


「いただきます」


「ど~ぞ」


 久しぶりにケーキを食べたが、やはり美味しい。

 実は僕は生粋の甘党で、中でもケーキが大好物なのだ。

 まさか誕生日の前日に食べられるとは思ってもいなかった。


「ふふふっ。北野くん、美味しそうに食べるね」


「そうかな。でも本当に美味しいよ。わざわざ祝ってくれてありがと」


「えへへ。まぁ一日早かったらしいけど」


 遥香は優しく微笑んだ。

 毎年、母に祝ってもらえるだけで、友達から祝ってもらえるなんて、まるで夢のようだ。


 朝ご飯を食べ損ねてお腹が空いていたのもあってか、ケーキは一瞬で無くなってしまった。


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