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15話
しかし、学校まであと少しのところで赤信号に出会ってしまった。
時間を確認すると、PM12:53だった。
この信号を無視して渡れば時間には余裕そうだが、僕は母の教えを守ることにした。
それは小学二年生の頃、母が僕に言ったことだ。
「信号を守っている人に悪い人はいない、とは限らないの。でもね、信号を守れない人に優しい人なんていないわ。だから祐は、信号を守れる優しい人になってね」
信号を守れる悪人はいても、信号を守れない善人なんていない。
僕はその教えをこれまでちゃんと守ってきた。
こんなところで、善人の称号を剥奪されるわけにはいかないのだ。
しばらくすると信号が青になり、僕は走って学校の玄関に向かった。
上履きに履き替え、三階の音楽室まで全速力で駆け上がる。
音楽室のドアの前で呼吸を落ち着かせ、風に吹かれて舞い上がった髪の毛を軽く整えた。
ドアを開けると、一年に一回聞くか聞かないかくらいの音が聞こえた。
パンッ