11話
アラームが聞こえた、気がした。
目をこすりながらも時計を確認すると、まだAM3:51だった。
予定ではあと四時間ほど眠ることができる。
とりあえず雨が降っているのかを確認したくなった。
予報通りならもう降り始めているはずだ。
カーテンを少し開けて、外を覗いてみたけど暗くてよく見えない。
僕は部屋の電気をつけ、もう一度窓の外を見ると、まだ雨は降っていないようだった。
アラームが鳴るまで寝ようかと電気を消そうとしたが、すぐに眠りにつける気がしなかった。
部屋を出てリビングに行くと、テーブルの上に紙が置いてあることに気づいた。
―― おはよう
仕事に行ってきます
朝の9時には帰るから朝ご飯は待っててね ――
母からの置手紙のようだ。
この家には母と僕の二人で暮らしている。というわけで、今、家には僕しかいないということだ。
僕は冷蔵庫から野菜ジュースを取り出し、ガラスのコップに注いだ。
ここで飲み干してしまおうと思ったが、そのコップを持って、自分の部屋に戻ることにした。
僕の部屋のドアは開いていて、その隙間から電気の光が漏れている。
部屋に入ると、勉強机にコップを置き、ピアノと向かい合った。
運動も勉強もせず、ピアノを弾き続けた六年間。
この白と黒のシンプルな鍵盤がとても好きだった。
最近全然弾いていなかったのは、ピアノが嫌いになった訳ではなく、少しピアノと距離を取りたくなったからだ。断じて嫌いになった訳ではない。
鍵盤の上に両手を置いた。
手慣らしにパッヘルベルのカノンを弾き始めた。
久しぶりに弾いた割に、結構上手に弾けている。
僕はこの曲が大好きだ。気持ちが落ち着くし、心なしか寿命が延びている気さえしてくる。
ひと通り弾き終えると、僕はスマホを開き、写真フォルダから今日撮った遥香の作詞の写真を開いた。
この歌詞に合う曲調とはどういうものだろう。
まず作曲なんてしたことがないし、ルールの一つも知らない。
なにより、ピアノ一つで作曲などできるものなのかと少し笑ってしまう。
最近の流行はアップテンポな曲だと勝手に思っている。
だから、この歌詞も流行の曲調に乗せてあげるべきなのだろうか。
いやいや、ちょっと待て。
なぜ作曲しようとしているのだ。
作曲をする必要などもちろんないけど、それ以上に思うことがある。
それは、こんな寝起きの思い付きで、この歌詞にメロディーをつけてもいいのか、ということだ。
もっと音楽を愛している人、作曲のセンスがある人こそが、この歌詞に手を加える権利があるのではないのだろうか。
遥香の歌詞を眺めて数分が経った。
僕は机の上に置いた野菜ジュースを一気に飲み干し、もう一度鍵盤の上に両手を置いた。
頭の中には、彼女の言葉が浮かんでいる。
「私の歌詞を沢山の人に届けるには北野くんが必要なんです。一緒に曲を作ってください」
僕は今、友達から必要とされている。
今回くらい自分のセンスを試してみようか。
いつの間にかピアノの音が部屋中に響き渡っていた。