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アイをトル  作者: 冬夜風 真愛
11/54

11話


 アラームが聞こえた、気がした。

 目をこすりながらも時計を確認すると、まだAM3:51だった。

 予定ではあと四時間ほど眠ることができる。

 とりあえず雨が降っているのかを確認したくなった。

 予報通りならもう降り始めているはずだ。

 カーテンを少し開けて、外を覗いてみたけど暗くてよく見えない。

 僕は部屋の電気をつけ、もう一度窓の外を見ると、まだ雨は降っていないようだった。


 アラームが鳴るまで寝ようかと電気を消そうとしたが、すぐに眠りにつける気がしなかった。

 部屋を出てリビングに行くと、テーブルの上に紙が置いてあることに気づいた。


 ―― おはよう

    仕事に行ってきます

    朝の9時には帰るから朝ご飯は待っててね ――


 母からの置手紙のようだ。

 この家には母と僕の二人で暮らしている。というわけで、今、家には僕しかいないということだ。

 僕は冷蔵庫から野菜ジュースを取り出し、ガラスのコップに注いだ。

 ここで飲み干してしまおうと思ったが、そのコップを持って、自分の部屋に戻ることにした。

 僕の部屋のドアは開いていて、その隙間から電気の光が漏れている。

 部屋に入ると、勉強机にコップを置き、ピアノと向かい合った。

 運動も勉強もせず、ピアノを弾き続けた六年間。

 この白と黒のシンプルな鍵盤がとても好きだった。

 最近全然弾いていなかったのは、ピアノが嫌いになった訳ではなく、少しピアノと距離を取りたくなったからだ。断じて嫌いになった訳ではない。


 鍵盤の上に両手を置いた。

 手慣らしにパッヘルベルのカノンを弾き始めた。

 久しぶりに弾いた割に、結構上手に弾けている。

 僕はこの曲が大好きだ。気持ちが落ち着くし、心なしか寿命が延びている気さえしてくる。

 ひと通り弾き終えると、僕はスマホを開き、写真フォルダから今日撮った遥香の作詞の写真を開いた。


 この歌詞に合う曲調とはどういうものだろう。


 まず作曲なんてしたことがないし、ルールの一つも知らない。

 なにより、ピアノ一つで作曲などできるものなのかと少し笑ってしまう。

 最近の流行はアップテンポな曲だと勝手に思っている。

 だから、この歌詞も流行の曲調に乗せてあげるべきなのだろうか。


 いやいや、ちょっと待て。

 なぜ作曲しようとしているのだ。

 作曲をする必要などもちろんないけど、それ以上に思うことがある。

 それは、こんな寝起きの思い付きで、この歌詞にメロディーをつけてもいいのか、ということだ。

 もっと音楽を愛している人、作曲のセンスがある人こそが、この歌詞に手を加える権利があるのではないのだろうか。

 遥香の歌詞を眺めて数分が経った。

 僕は机の上に置いた野菜ジュースを一気に飲み干し、もう一度鍵盤の上に両手を置いた。

 頭の中には、彼女の言葉が浮かんでいる。



「私の歌詞を沢山の人に届けるには北野くんが必要なんです。一緒に曲を作ってください」



 僕は今、友達から必要とされている。

 今回くらい自分のセンスを試してみようか。


 いつの間にかピアノの音が部屋中に響き渡っていた。


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