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アイをトル  作者: 冬夜風 真愛
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1話

冬夜風ふゆよかぜ 真愛まなです。


執筆自体は終了しております。

非常に長編です。

徐々に連載していきます。


 今日は、待ちに待った坂ノ上高校の入学式だ。

 文字通り、坂を上った先にある高校のことで、校舎の外壁は汚れが見当たらないほど白い。

 ちなみに、その坂の下にも別の高校があり、学校の名は坂ノ下高校である。偏差値にほとんど差はないが、部活動に関しては坂ノ上高校に軍配が上がる。そのため、坂ノ上高校は毎年受験者が多い。不合格になった者は渋々と坂ノ下高校に入学するのが鉄板になっている。


 着慣れない制服のポケットに、これから始まる高校生活への期待と不安な気持ちを押し込み、その上から手を突っ込んだ。

 勉強にはついていけるのか、どんな部活に入ろうか、そんなありきたりな心配はどうだってよかった。僕はただこの三年間を平凡に過ごせればいいのだ。

 甘酸っぱい青春なんて、僕は一切求めていない。


 「ふぅー、はぁー」


 今日からほぼ毎日通らなくてはいけない校門の前で、僕は大きく深呼吸をした。こんなことをしている間にも、同じ一年生らしき生徒たちが僕の横を通り過ぎていく。

 見たことのない顔触ればかりだ。

 途端に不安な気持ちに駆られたが、すぐに正気を取り戻し、一歩目を踏み出した。


 「北野くん、おはよ~」


 北野 祐。 僕の名前だ。

 声の聞こえた方を見てみると、見覚えのあるポニーテールの女の子がニコッとした笑顔で立っていた。彼女とは小学校の頃からの仲で、正直この笑顔とポニーテールには見飽きている。ちなみに彼女のことは下の名前で呼んでいて、僕の唯一仲の良い女友達だ。


 その彼女の名前は、久保 遥香。

 特技は、誰とでも仲良くなれることと、四六時中笑顔でいられることらしい。もし僕が面接官で、この特技を言ってくる子が目の前に現れたのなら、迷わず合格通知を送ってしまうだろう。

 それほど魅力的な可愛らしい女の子だった。


 「遥香ってさぁ、毎日笑ってるけど疲れたりとかしないの?」


 僕は思っていることを素直に口にするタイプではない。

 しかし、遥香には気を遣わず言ってしまう。もちろん、それだけの仲を構築できていると僕自身が思っているからだ。こんな変な問いかけにだって、どうせ彼女はニコッと笑って「私の笑顔は他人を幸せにする」みたいなことを、恥ずかしげもなく言うのだろうと容易に想像できる。



 「笑顔はね、人を幸せにするのよ。

  私は世界中の人達が幸せになるまで笑い続けるわ。

  だって、それが私の使命だもん」


 

 そう言って笑った遥香を見て、僕もつい笑ってしまった。


「ほらね。笑顔のバトンが繋がったでしょ?」


 遥香は嬉しそうにそう言った。


「さぁ、早く教室に行こ!」


 機嫌のいい彼女は僕の制服の袖を引っ張って走り出した。


 僕は正真正銘の人見知りだ。俗にいう陰キャっていうやつである。

 だから、自分が教室に入る時に注目を浴びるなんて絶対にあり得ない、はずだった。

 僕と彼女は偶然にも同じ一年三組だった。

 一緒に教室のある三階へと上がる。

 下駄箱から教室に辿り着くまでが結構遠い。

 大きい窓ガラスの並んだ廊下を歩きながら、高校生活での身の振り方をもう一度よく考えた。


『あと数分後に出会う人達とは、たった三年の付き合いだ。深く関わる必要はない』


 自分に暗示をかけるように、そう言い聞かせた。


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