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七十六学期 お兄ちゃんの為に頑張る者

「……お、陰陽術って……乃土花ちゃんったら漫画の読み過ぎだよ。そんなの使えるわけないじゃん」



 ベッドに拘束された私は、身動きがとれないまま震える声で彼女に話しかけた。しかし、そんな私の思いを裏切るように乃土花ちゃんは、巫女服の中に手を突っ込んで何かを取り出そうとした。



 普通、こういう時の私といえば……谷間から何かを取り出すのでうひょ〜ってなるはずなのだが乃土花ちゃんにそもそも谷間などという絶景が存在しないせいなのか、それとも相手が幼馴染であるが故なのか特に燃えるものはなかった。



 彼女は絶壁の中から一枚のお札みたいなのを取り出すと、次に何処かから取り出した一本の針を使って自分の人差し指をチクっと刺して血を出した。




「……え?」



 何をやっているんだ。よく分からない私の目の前で乃土花ちゃんは、その人差し指から出ている血でお札に何かを描き始めた。



 少しすると彼女は、お札に描かれた真紅の円とその中に描かれたよく分からない模様を私に見せてきて次の瞬間に声を発した。



「東西南北東奔西走……隠れ恋恋。焼売(ポン)!」



 刹那、彼女の持っているお札から突然、炎が発生し始めた。



「……え?」



 乃土花ちゃんが私を得意げに見つめてくる。いや、今のわけ分からん呪文といい、この現象といい……これはもう信じざるを得ない。この子は、私の知らないうちに陰陽師になってしまったのだ。(どう見ても陰陽師というより魔法使いだが……)






 はぁ……いつからこの作品のジャンルは、現代ファンタジーになってしまったんだ。これじゃあもう何でもありだ。




 乃土花ちゃんは「ほい!」と言ってお札についた火を消した。


 ──術を解いたのかな……。


 それから彼女は、にっこり微笑んんだまま寝ている私に近づいてきて喋りかけてきた。



「……これで分かったでしょ? お兄ちゃん。私が陰陽師だって……。そして、お兄ちゃんを私だけの本当のお兄ちゃんにするための術も私は、習得することが出来た。この10年の間に。覚えてきたんだよ。安倍晴明の禁術を……」



「……え?」



 禁術って……絶対それ危ないやつだろ! そんな危ない力使って私を同行しようとしてるのこの子!?



「……まっ、待って落ち着いて! そんな訳のわからない事を他人にやるのは良くないよ! 人に迷惑をかける事は、良くないって小学校の時教わっt……」





「……えぇ!? お兄ちゃんは私のお兄ちゃんになる事が嫌なの!? いや! そんな事、本当のお兄ちゃんは言わない!」




「えええええええええええええええええ!」



 ぎゃっ、逆に……怒らせてしまったみたいだ。いやでもこの場で俺にどうしろと……。





 すると、そんな時に私のスマホが鳴り始めた。どうやら誰かから電話が来たみたいだ。



「……ぁ」


 私がスマホをとろうとベッドから少し離れた勉強机に手を伸ばそうとするのだが、届かない。



 すると、代わりに乃土花ちゃんが私の携帯を手に取り電話に出るのだった。



「……ちっ。別の女」


 乃土花ちゃんは、舌打ちをして私の代わりに電話に出る。



 めちゃくちゃ平然と人の携帯取り上げるやん……。



 彼女は電話の音を大きめにして私にも聞こえるように設定した。すると、受話器の中から聞き覚えのある声がしてきた。



「もしもし? お久しぶりですわね。わたくしです。金閣寺ですわ。覚えております?」





「……恋金!」


 私が電話に出ようと叫ぶが彼女の元の私の声は届かない。そのまま彼女は喋り続けた。



「……返事が聞こえませんがまぁ良いですわ。今度、もしよろしければ……で良いのですけれども。その……わたくし、研究のために沖縄にある別荘に行かなくちゃならなくて……それでその、ちょうどその……別荘の近くには海もありますし、だっ、だから! わたくしの別荘に行きませんこと? もっ、勿論皆さんを誘ってくれて構いませんわ! わたくしも……毎日研究続きでたまには羽目を外してあげない事もないと思いまして……」




 この子は、素直に一緒に行こうって言えないのか……。




「……返事をして欲しいですわ!」



 携帯越しに彼女は、そう言うと乃土花ちゃんが口元をいやらしく釣り上げて微笑んだ。



「……わかりました。その件、お兄ちゃんに伝えておきますね」



「え? お兄ちゃん? ちょっと貴方は一体……!」



 乃土花ちゃんは答える事なく電話を切り、そして少しして携帯を私の寝ているベッドの方へ投げた。それから彼女は言った。




「……ちょうど良いや。この際だし、この海イベントを通してお兄ちゃんの周りにいる女、一斉清掃しちゃおうか。くふふ……その方が楽だし、お兄ちゃんもその方が、良いよね?」





「……ひっ!」




 彼女の目がギロリとこちらを捉える。暁色に怪しく輝く彼女の目が私の背筋をゾクッと振るわせる。






 かくして、私達の真夏の(二つの意味で)ドキドキ沖縄海岸イベントが幕を開ける事になる。




 ※ちなみにこの後も私の拘束が解かれる事はなかった。

次回『海へやって来た者達』

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