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七十五学期 ヤンデレ妹な者

 気が付くと、とっくに夜になっていた。部屋は何故か暗くて、全然何も見えない。私は、自分が今どういう状況なのか……それさえもよく分からない。



 いや、背中から伝わるこの柔らかくてもふもふしたこの感じ……体が若干、後ろに寄りかかっているのからして私は、おそらく横になっているのだろう。




 あれ……? けど、いつ寝た? 私は、さっきまでベッドで横になっていなかったはず……いや、待て……そもそも記憶が夕方ごろで止まっている。その後、どうなったんだっけ……?










 と、思考を巡らしていると……突如、私の部屋の電気がピカッとつけられた。その急に眩しい光から反射的に身を守ろうと両手で視界を覆うように顔を隠そうとしたのだが、しかしそこで私は、自分の両手がベッドの上で縛られた状態にある事を理解した。




「え……?」



 わけが分からず、自分の真下を見てみるとなんと、両足までも拘束されて動けない状態となっているではないか。




 なっ、なんで? 何でこんな事に!? しかも、私……なんか両手両足開いた状態で拘束されてるやん……。





 すると、私の部屋の入口の方から白い白衣みたいなのを着た乃土花ちゃんの姿が見えた。彼女は、白い白衣と手術する時にお医者さんが被ってる白いバンダナみたいなのを頭につけていた。そして、顔は緑色に塗られてあって、目の下に赤いラインが塗られてあって……。





「ん……?」



 ちょっ、ちょっと待て!? こっ、これって……この光景って……もしかして……いや、もしかしなくても……ショッ〇ーの改造手術!? もしかして、私は……あの後……そのあまりの完璧っぷりに秘密組織に埒られて……改造手術を施されてバッタの遺伝子を……。




 迫る~ショッ〇ー! 悪魔のぐんだ~ん! 我が友ねら~う黒い影。世界の平和を守るため~GO! GO! レッツゴ~輝くマーシーンー。





 いかんいかん……。興奮のあまり脳内でBGMまで流れてしまった……。



「……お兄ちゃん?」


 私の意識は、目の前で意味分からん色で顔を塗っている乃土花ちゃんが話しかけてきた所で妄想の世界から脱する事に成功した。



「えと、乃土花ちゃん? これは、その……一体、どういう……?」





「どうもこうも……これからお兄ちゃんを元の私のお兄ちゃんに戻してあげるの」



「ん? は? いやいや乃土花ちゃん……私は、貴方のお兄ちゃんになった覚えなんて……」




「……ふ~ん、そう言う事いうんだ。お兄ちゃん……昔は、私の事は絶対に守るとか……私の事、妹みたいに思ってるとか言ってたのに……やっぱり、あの女が悪いんだ。ふーん」





「いっ、いや……それは!」



 実際に言った覚えはある……。あの時は……小さいうちから女の口説き方を学んでおけば、きっと私にだってワンナイトが出来ると信じて……ネットで色々調べまくってたんだ。(結果的に全然うまくいかなくて辞めたけど……)




 あの時やってた《《ドシハナ構文》》……全部真に受けてたのかこの子……。





「やっぱり、お兄ちゃんは……1人にしちゃダメだったみたいだね。1人にすると……お兄ちゃん綺麗だから……どんどん色んなメスが寄って来る」



 乃土花ちゃんが、白衣の中から台所にあるはずの包丁を1つ取り出して、その刃先に指をちょこんと置いて話続ける。



「……だからね、私決めたんだ。お兄ちゃんを元のお兄ちゃんに戻すためには……邪魔なのをみ~んな、蹂躙すれば……ハッピーエンドだってさ」



「ひぃ!」


 この子は、昔からこういう変な所があった。私が、小学生の頃にクラスの男子からちょっと笑われただけで腹をたてて、仕返ししに行ったり……給食で私の嫌いなものが出ると給食のおばあちゃんにクレームつけにいったり……。




 とにかく、私の事になるとどうしてだか視野が狭くなる。いや、狭すぎるんだ。しかもやる事が全部極端だし……。




 成長して、少しはマシになったかなと思ったけど……そんな事なかった。むしろ、前より悪化してる気がする。こうなると……本当に説得するのが難しい。小さい頃は、私は大丈夫だからって言えば全部済む問題だったけど……今のこれは違う。


 彼女は、続けて言った。



「……でもその前に皆蹂躙する前に、まず……お兄ちゃんの事を何とかしないとね」



 彼女が、手に持った包丁をベッドの上に突き刺す。ちょうど、私の顔の隣に突き刺さったその姿に私の体は恐怖のあまり固まってしまう。




 乃土花ちゃんや……数年会わなかったうちにどうしちまったんだい……。




 彼女は、更に続けた。



「……ねぇ、私の苗字……覚えてる?




「つ、つち……土御門……」




「そう……。そして、私の本家は京都にあるの……。私はね、お兄ちゃんに会えない間中ずっと……京都の本家に帰って、《《ある事》》を修行し続けていたの……」




「……京都? 修行?」



 何言ってるの? この子……。さっきからずっと……何を言ってるのかわけわからないよ……。それに……《《ある事》》って……?


 乃土花ちゃんは、続けて言った。



「……うん。そうだよ。私はね、京都でずっと……《《陰陽術》》の修行をしていたの。私の先祖……安倍晴明が残したとされる陰陽術の秘術書を読んで……《《日和お兄ちゃんを自分の本当のお兄ちゃんにするための陰陽術を研究していたの》》」






「……」



 乃土花ちゃんは、凄く楽しそうにそんな事を言いながら白衣を脱ぎ捨てて、下に着ていた巫女服姿になっていた。




 普段なら、ここで……下着をつけていない乃土花ちゃんの巫女服姿で興奮していたけれど……今はそんな気分にもなれない。それは、恐怖心を抱いているからでもなく……ただ単純に……乃土花ちゃんの言った事の意味がマジでわけが分からなかったからであった。




 お兄ちゃんを本当のお兄ちゃんにするための陰陽術……。私は、頭の中でこの言葉の意味について3秒考えたが……やはり意味は分からない。





「ん……?」



 次第に私は、考える事をやめた。

 

次回『お兄ちゃんのために頑張る者』

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