七十二学期 学校を案内する者
「うわぁ! 凄い!」
乃土花ちゃんが、家に来た次の日。私達は、学校を回る事になっていた。光星高校の前まで彼女を案内した私だったが、校門の前で乃土花ちゃんは目を輝かせていた。
「……そっ、そうかな?」
普段、通っている身としては一体どこがそんなに凄いのかよく分からない。乃土花ちゃんは、食い気味に私に言ってきた。
「……凄いよ! こんなに校舎が綺麗だなんて!」
「え? そう……?」
「そうだよ! 凄いよ! 綺麗だし、なんか……ドラマとかに出てくる感じの……青春って感じで……うわぁ! 」
乃土花ちゃんが凄く嬉しそうなのは何よりだ。しかし……通っている身としては、そこまで綺麗に見えない。いや、というか壁とかよく見たら汚れてるし。青春というが、中身は至って普通の学校だぞ……。
まぁ、中学生というのは無条件に高校に憧れを抱いてしまう生き物なのだ。きっと、入学して3ヶ月過ぎた頃には口癖が「うちの学校、マジクソだかんね」になっている事だろう。
「それにしても……まだ、学校の中にさえ入れていないのにいつまでここで学校見てるつもり……? 凄く暑いよ」
「……はっ! ごっ、ごめん! ごめんねお兄ちゃん。うちの学校に比べてあまりにも綺麗過ぎたから、つい見惚れちゃって……」
「あぁ……」
そういえば、乃土花ちゃんが通っている地方の学校は、確かにすげぇ汚かった記憶がある。前に写真見せて貰ったっけ……。廃校寸前って感じでヤバかったな。
それと比べれば確かにうちの学校は、綺麗だな……。
私達は、それから少しして校舎の中に入って行く。そして、自分の学校について話ながら1つ1つを案内する。
「……ここが体育館。んで、その隣が柔道場と剣道場ね」
「おぉ!」
大興奮だ。凄い盛り上がってるよこの子……。まぁ、楽しんでくれれば良いんだけど。
「……んで、体育館から少し歩いて廊下を真っ直ぐ進んで行くと……私達の教室があるってわけ」
「おぉ! お兄ちゃんの教室!」
興奮する乃土花ちゃんを連れて行きながら私が普段通っている教室のドアを開けるとそこに見知った人の姿があった。
その子は、教室の席で1人、本を読んでいた。水色の髪の毛が特徴的な背の小さい少女……。その少女の座っている席の上には、山積みになった分厚い本が置かれている。まるで、辞書を開いている研究者みたいな様子だ。
「……あれ? 瑞姫ちゃん?」
そう、声をかけてみると本を読んでいた彼女は、ゆっくりと顔をこっちに向けてきて、ニッコリ微笑むと告げた。
「……あ、日和さん!」
「偶然だね。どうしたの?」
「……あぁ、実は夏休み前に借りてた本を返しに行くの忘れてて、それで今日中に返さないとと思って……」
「その……分厚い本を返しに今から行く感じ?」
「いえいえ。もう返し終わって……これは、今日借りたものです。夏休みなので、ちょっと長めの本を読もうと思って」
それにしては、かなり分厚い気もするが……まぁ、そういえばこの子は、読書家だったな。きっと、さぞ借りた本を読む事が楽しみだったのだろう。それで、待ちきれずについ、教室の中で少し読んでこうと思ったのだろうな。
「……日和さんは、今日はどうして学校に?」
瑞姫ちゃんの一言で私は、ハッと思い出す。後ろを振り返ってぼーっと棒立ちしている乃土花ちゃんを瑞姫ちゃんに紹介する。
「……今日は、昔仲が良かった幼馴染に学校を案内する事になっててね……」
すると、説明の途中で乃土花ちゃんが礼儀正しくお辞儀をして瑞姫ちゃんへ挨拶をする。
「はじめまして。土御門乃土花と言います。日和お兄ちゃんとは、小さい頃からの付き合いで……来年からこの学校に通いたくて今日は、学校案内をしてもらっています。よろしくお願いします」
「……あっ、あぁ……その……こちらこそよろしくお願いします」
乃土花ちゃんのあまりに礼儀正しい挨拶に水野さんも困った様子だ。……いや、無理もない。私も普段の距離感がやたら近い乃土花ちゃんしか知らなかったからこんな風に礼儀正しく挨拶をしている彼女の姿には、びっくりだ。
人前では、きちんとするタイプだったっけな……。まぁ、きっと成長して変わったのだろう。良い事ではないか。
次回『妹を名乗る者』




