六十八学期 北極星の下で出会う2人の者
――お祭りかぁ……。
私=火乃鳥火彩は、お祭り会場の真ん中にいた。辺り一面には、出店があちこち立ち並んでいる。明るい街灯に照らされながら地元の子供達(?)が、とても楽しそうに食べ物や遊びを楽しんでいた。
「……あ、金魚すくいだぁ~」
私もその子らに混じる勢いで出店の方へ。すると、金魚すくいの出店をやっているおじちゃんが、はしゃぐ私を見て微笑ましそうに声をかけてくれた。
「……おっ、可愛い嬢ちゃん。アンタもやるかい? 一回、200円ね」
「やるやる~。3回お願い!」
私は、おじちゃんから網を3つ借りるとすぐにビニールプールの水の中を泳ぐ金魚たちに意識を集中。そして、水の表面を斬り裂くように網でカットインして、金魚たちを次々とすくい上げていく。
「……おっ! 凄いね。嬢ちゃん! 4匹も捕まえちゃって~」
「えへへ~。金魚すくい得意なんだよねぇ。私は、とても得意げな顔で袋に詰めて貰った金魚たちをおじちゃんに見せながら歩いて行った。
「……見た見た! アタシの金魚さばき! これで酒だけの先輩じゃないって分かっただろ! 可愛い後輩達よ!」
私が日和ちゃん達がいた場所に戻って来て彼女達に声をかけたつもりで振り返ると、そこには既に誰もいなかった。
「あれ……?」
辺りをキョロキョロ見渡しても何処にも彼女達の姿は見当たらない。それどころか、人が多すぎて探すのも困難な状況だ。
携帯は……あぁ、そうだ。昨日の夜、飲み歩いた帰りでここに来たから充電してなかったんだ。スマホをつけてもバッテリーマークに✕の表示が出るだけ。完全に迷子になってしまったようだった。
「……やべぇ。どうしよ。迷子だぁ~」
徐々に私の心の中に危機感のようなものが芽生えだす……
「迷子だあああああああああああああああ!」
それから、お祭り会場のあちこちを歩き回って日和ちゃん達を探した。しかし、全然見つからない。とうとう、体力的に限界を感じ始めた私は、近くの神社の前の石造りの階段に腰を下ろして、ゆっくり座って休憩する事にした。
はぁ、昨日飲み歩かなければ……今頃、もっと体力もあったろうに。はぁ、酒に飲まれるとはこう言う事をいうのかな……。
なんて、今更後悔しても遅かった。私は、黙って空に浮かぶ星空を眺めた。そこには、北極星が1つ輝いていてその光だけが私を照らしていたのだった。
――そういえば……昔も……こういう事ってあったっけ……。
私の脳裏にふと、蘇って来る幼い頃の記憶……。それは、私がまだ3歳くらいの頃の話だ。当時、私はこことは違う笠田市という所に住んでいた。その時も地元のお祭りに家族で着ていた私は、金魚すくいに夢中になって……気づいたら両親と離れ離れになっていた。
そして、急いで両親を探してお祭り会場のあちこちを探したが見つからず、結局……今と同じように神社の前で泣く事しかできなかったのだ。
けど、そんな時私に声をかけてくれた人がいた。名前は……忘れてしまったが、歳は高校生くらいだったろうか? 少し太った男の子だった気がする。私は、彼に励まされて一緒に迷子センターまで向かった。そして、両親が見つかるまでの間ずっとそばにいてくれて……それで……その後は、もう覚えていない。まぁ、普通に別れたんだろう。
私のまだ幼い頃の記憶だ。……それから、その人とは一度も会う事なく今に至る。
「……」
無言のまま私は、神社の階段で1人下を向いていた。そして、もう一度北極星を見上げる。
――そういえば、その時にあの男の人が言ってたっけ? 北極星は、北を示してくれる。大昔から……自分が一番今、欲しいと思っている所へ案内してくれる。天の案内人だって……。
そんな事、良く知っていたものだ。思い出すと、なんだか変な人だったな……。
「……」
しばらく、北極星を見上げた。そして、私は自分の足が少し回復してきたのを感じると立ち上がって、北極星のある方を目指して歩き出すのだった。
「……行こっかな」
…………しばらく歩いた。お祭り会場に戻って、その道を真っ直ぐ突っ切っていき、私は真っ直ぐと道を歩き続けた。
「……」
いつの間にか酔いも少し冷めていた。まぁ、迷子になっちゃ流石の私も冷静にはなる。私は、黙って北極星の指し示す道を歩き続ける。
すると、私の歩く道の先に見覚えのある人が向こうから歩いて来るのが分かった。
「ぁ……!」
その人は、白い着物を身に纏ったスタイル抜群の綺麗な女の子……。私は、彼女の元へ早歩きで向かって行き、その名を叫んだ。
「日和ちゃああああああああああああああん!」
北極星は、北を示してくれる。大昔から……自分が一番今、欲しいと思っている所へ案内してくれる。天の案内人……。
次回『花火を見る者達』




