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六十七学期 瑞姫と愛木乃。争う者ら

 駅から少し離れた所へ歩いて行った先に河川敷がある。大きな川の両サイドでは沢山の人達が今日の為にブルーシートを敷いて待機している様子があった。そして、そんな人々の群れから少し離れた所では、沢山の出店が置かれていた。屋台から美味しそうな匂いがあちらこちらから漂ってきて、私達の食欲を掻き立てる。



「……なっ、なんですの!? この庶民の人混みは! まるでゴミのようですわ!」


 そんな賑わうお祭り会場の真ん中で人混みに紛れて辛そうにしている金箔時さんの姿がある。お金持ちのお嬢様にとってこういう人混みはあまり経験しない事なのだろう。彼女は、そのあまりの人混みから少し気持ち悪そうな表情をしていた。



「……うっ、なんだか……酸素が薄い気がしますわ」



「……え! 貴方、大丈夫?」


 そんな彼女の事を真っ先に心配したのは、我らがママこと氷会長だ。彼女はすぐにポケットからハンカチを取り出して彼女の口元に当ててあげて、背中を擦った。



 いや、なんて母性溢れる御方なんだ。流石は、我らのつららママだ。彼女は、気持ち悪そうに俯いている金箔時さんの面倒を見てあげながら私達に言った。



「私、この子と先にブルーシートの方に行ってるわね」



「え? お姉ちゃん、一緒に回らないの?」



「えぇ。ごめんなさい瑞姫。でも、彼女の事ちゃんと面倒見てあげれる人がいないとダメでしょう」


「……うぅ、うん」


 つっ、つららママ! なんてママなんだ。優しい! おじさん、貴方みたいな人に介護されたい人生でした……。


 そして、瑞姫ちゃんもママの前では幼い子供みたいな顔をするんだね。普段の落ち着いた瑞姫ちゃんとは、少し違う雰囲気が見れておじさん少し嬉しいよ。




 と、そんなこんなで金箔時さんとつららママの2人が外れて改めて私達4人は、一緒にお祭りを回る事にした。



「そういえば、火乃鳥先輩とちゃんと話をするのは久しぶりでしたね」



「ん~? あぁ、日和ちゃ~ん。でへへ! おばさん、若い子と話し出来て嬉しいよ」



 ちょっと今のは、聞かなかった事にしよう。うん……。




「……先輩は、お祭りとか来たら何を一番楽しみたいタイプですか?」



「ん~? あたしぃ? えーっとね、やっぱビールかな!」



 あぁ、質問しなくても分かる。とても分かりやすい解答だ。模範解答すぎて逆に尊敬だ。



 それにしても、この先輩は本当にいつも酒臭い。本当に毎日のように飲みまくっているのだろうか……。高校生なのに……。


「はぁ……」


 そんなこんなで私が溜息をついていると突如、小さい手が私の右手を引っ張ろうとしてきた。振り返ってみるとそこには、水野さんの姿があった。



「……日和しゃん! 一緒にりんご飴を食べにいきましょう!」



 彼女のその姿は、まるで小さな妖精のよう。瞳を輝かせて私の手を引っ張る姿がとても可愛らしかった。


 それにしてもりんご飴か、私も久しく食べてないし今日は買いに行っても良いかな。……と、瑞姫ちゃんと一緒に行こうとしたその時、今度は左手をもう1人の子に引っ張られる。振り返ってみるとそこには、愛木乃ちゃんの姿があって彼女がニッコリ微笑んだ顔で私に告げてきた。



「……日和ちゃん! りんご飴なんかよりもまずは、ご飯をしっかり食べないと! 一緒に焼きそばを買いに行きましょう」




「あぁ、確かにじゃあ先に焼きそばを……」



 と、その時だった。突如、私の右足が瑞姫ちゃんの足に思いっきり踏まれてしまい、彼女は私に顔を近付けて言ってきた。



「……いやいや! それよりも先にりんご飴です! 私の方が先に誘ったのですから!」



 しかし、それに対して今度は左足を踏みつけて顔を近付けてくる愛木乃ちゃん。彼女は、言った。



「……いや、それよりもまずはしっかりご飯を食べさせてあげる事が大事です。さぁ、焼きそばに行きましょ」





「……ダメでしゅ! 私の方が先に言ったんです! こういうのは、順番!」



「は? 食事の順番も無視していきなりデザート食べさせようとしてくる人にそんな事を言われる筋合いは、ありません」



 えぇ……なんか2人とも怖いんですけど。私の両サイドで睨み合わないでくれるかな……。ていうか、なんでそんな仲悪いのよ。前までそんな素振りなかったじゃん……。貴方達。




 と、傍観しているうちに2人の言い合いは更に激しさを増して行くのだった。




「……何ですって! 貴方、前から思っていましたけど少し偉そうです!」



「なっ! 貴方だって、最近ちょっと調子乗り過ぎよ! いつの間にか名前呼びになってるし……」




 すると、瑞姫ちゃんは突然得意顔になって私に言ってきた。


「……ふふん、まぁ私達は同じクラスですし……木浪さんよりも私の方が日和さんと一緒にいる時間長いですし、当然ですよ」




「なっ! 私だって、最初に日和ちゃんと仲良くなったのは私なんだからね!」





「何でしゅか!」



「何!」



 愛木乃ちゃんと瑞姫ちゃんがすげぇ怖い顔で睨み合ってる! えっ、ちょっ!? どうしよう! 2人ともどうしてそんな突然仲悪くなっちゃったの?



「ちょっと、2人とも落ち着いて! りんご飴も焼きそばも両方行けば良い事じゃない」





「「ちょっと黙ってて!」」


 2人が同時に私の耳元でそう言ってくる。そのあまりにうるさい声に私は、もう耐えきれずすぐに火乃鳥先輩に助けを求めようとした。




「……先輩、お願いします! 助けてくだs……」



 しかし、言いかけて私はさっきまでそこにいたはずの火乃鳥先輩が急にいなくなってしまった事に気付く。



 ――あ……あれ?



 そして、驚いた私は未だに言い合いが終わらない瑞姫ちゃんと愛木乃ちゃんに告げた。



「……火乃鳥先輩がいない!」


 言い合っていた2人は、途端にピタッと喧嘩をやめて、辺り一面を見渡した。しかし、やはりそこに火乃鳥先輩らしき女の子の姿は何処にもなかった……。




「え……?」

次回『北極星の下で出会う2人の者』

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