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六十六学期 花火大会に集まる者達

 夏休みも既に2週間した頃。私、日下部日和は夜の駅前で1人スマホをいじりながら人を待っていた。


 まだかなぁ~。ま~だかなぁ~。




 心をるんるん楽しませながら私は、髪についた飾りをちょっといじる。スマホのカメラで自分を写して……こんな感じかなぁ……? いやぁ、浴衣ってほんと難しいな。着る事自体は、凄く楽しいんだけど。




 私は、スマホのカメラを上下にぶんぶん振って、カメラで全身をくまなく撮影。すると、画面には浴衣を着た自分の姿が映される。白を基調とした生地に赤い花柄が描かれた綺麗な浴衣。今日のためにお店でレンタルしといてよかった。ふふふ……なんだか、ニヤケが止まらないねぇ……。自分の美しすぎる姿に。



 そんな頃、向こうから呼び声が聞こえてくる。


「……日和ちゃん!」


 振り返ってみるとそこには、浴衣を着た皆の姿があった。彼女らは、手を振りながらこっちに向かってくる。私も彼女達に手を振り返し、駆けつけようとするが……この浴衣……動きづらい。男時代、甚平は凄く動きやすかったが……こっちは、全然動けん。というか、ほぼ走れない。



「……お疲れ~」

 そんなこんなで、できる限りの早歩きで彼女達と合流した私は、改めて皆が着ている浴衣を目の当たりにする。



 いやぁ~、おほぉ。皆さん、やっぱり別嬪さんな事で……。いやぁ、良いですね。日本人は、やはりこういう慎ましい格好といいますか……そう言ったものに美しさが見られるよね。




 特に似合ってるなと感じたのは……うん。これは、愛木乃ちゃんだな。元々、大和撫子って感じの風貌の持ち主なんだ。似合わないわけがない。すらっとした背の高さとお姉さん味を感じる様子。そして何より……隠しても隠しきれていないおっぱい! これに勝るものが、他にあるだろうか? いやない! 濃い緑色の浴衣が存分に似合っている!



 と、そんな時……愛木乃ちゃんの隣からひょこっと現れた1人の少女がふて腐れた顔で私の方を見てくる。



「……水n……じゃなくて、瑞姫ちゃん」


 彼女の方は、愛木乃ちゃんと違ってセクシーさはないが、可愛い花飾りと口紅をはじめとする化粧、水色の浴衣を合わせた可愛らしい見た目になっており、普段の少し落ち着いた印象とは全然違うキャピキャピした今時の女の子の着る浴衣~って感じのギャップを感じられる。


「……《《日和ちゃん》》、こんばんわです! どうですか? その……可愛いですか?」



「……ふぇ!?」


 いや、そんなん……可愛いに決まっている。なかなか良い。いや、愛木乃ちゃんと並ぶと両方とも真逆の良さがあって、甲乙つけがたい……。というかその……水野s……じゃなくて瑞姫ちゃんはどうして頬を紅く染めているのだ! なんだか、可愛いだけじゃなくて色っぽさまで感じるぞ……。おじさん、そういうの見ちゃうとキモイ笑みが零れちゃうよ。




 と、そんな時……今度は反対側から甲高い笑い声が聞こえてくる。



「おーほっ! ほっ! ほっ!」


 ――今日はやけにうるさく感じるな……。



「お久しぶりですわね。日下部さん。どうですの? 夏休みは? 充実した日々をお過ごしで? わてくしは、スイスに行って……その後、イタリアに行き、フランスとドイツを巡った後にギリシャへ行って、エジプトを回ってからブラジルに飛びましたわ」


 ――マウントのつもりなんだろうけど、色々行き過ぎてて最早羨ましいとも思えない……。




「……今日のこの着物、あなた方にも貸してるこれですけれど……実は、お父様の友人の親戚のおばさんが経営している最高級の着物ですわ。汚したりしましたら許しませんわよ。まぁ、もっとも……貴方方、庶民とは違うこのわてくしの着物は、周りに金箔がつけられていて、誰にも汚される事のない美しさを表現しておりますけれども……」




 ――どうしてもマウントがとりたいのか。途中から何を言いたいのか分からん構文が完成してないか? この子、本当に学年2位なんだよな……。





 まぁ、そんな事はさておき……確かにこのお嬢様の浴衣も良い。煌びやかで派手。浴衣の良さである慎ましさの欠片もないが、それが逆にこの子の魅力を引き出しているともいえる……。(胸まで派手だし……)



 しかし、このキラキラ浴衣……全身金箔を貼っているようだが、それじゃあ本当に正真正銘の金箔時さんの完成ではなかろうか……。うむ、ネタでやっているのか。それとも大マジなのか。金持ちの感覚は分からない。



「……と、とても似合ってるわよ。首里城さん」



「金閣寺です! ここまで金をアピールしているのに、どうしてまだ名前を間違えるの!」



「あ、あぁ……ごめんごめん。しゃちほこさん」



「もう、神社でも寺でも城でもない! ただの金ぴかオブジェじゃない!」




「あ、あはは……」



 と、まぁそんなこんなでいつも集まっている子達の浴衣はこんな感じだけど……今日はそれ以外にも……人を呼んでいる事をこの時まで忘れていた。



 突如、私の体が後ろから悪臭漂う何者かに抱き着かれる。



「……いえーい! 日和ちゃ~んおっひさ~。元気にしてるぅ?」




「……ひっ、火乃鳥先輩!?」


 相変わらず酒臭い。しかし、後ろを振り返って改めて見てみるとこの人の浴衣もしっかり似合っている。赤を基調とした花柄の浴衣。少し若干着崩して肌を露出している所が気になり過ぎるが……この子の浴衣もまた良きものかな……。(酒瓶さえ持ってなきゃ完璧だったんだけど)




「こらぁ、火彩。日下部さん、迷惑そうにしてるでしょ。離れなさい」


 すると、今度は後ろから青い水着を身に纏った氷会長の姿が目に入る。酔っぱらった火乃鳥先輩に対しても溜息をつきつつ冷静に対処し、私から引き離した氷会長。うむ、やはり似合う。この人も愛木乃ちゃんと同様に身長が少し高めで、慎ましい風貌の持ち主。似合う……! そして、火乃鳥先輩に接するあの姿……間違いない。ママだ! すぐ後ろにいた私には分かったぞ。氷会長のバブ味を!





 と、まぁ私がそんな妄想をしているといつの間にか私の隣に来ていた愛木乃ちゃんが、話しかけてくる。



「……皆、揃った事ですし、そろそろ行きましょう」



「そうだね! 行こう! 花火大会に!」



 私達は、駅の向こうにある花火大会の会場である河川敷まで歩き出したのだった……。


次回『瑞姫と愛木乃。争う者ら』

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