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六十五学期 変質者

 ――ぐふふ、今回の新人も可愛いねぇ。



 日下部日和は、この男の邪悪な面をまだ知らない。この男、日下部日和のバイト先の店長こと丞部砂羽流すけべさわるは、これまで何人ものバイトを雇ってきた。それは、彼が店長になった時から現在までの間に何十人という数の人を雇ってきたが、その全てが女の子であった。彼女らは皆、最初はこのバイト良いかもだなんて思っていたのだが、しかし……彼女らのそんな淡い希望は粉々に粉砕されて来た。


 彼は、とんでもないムッツリスケベだったのだ。女の尻を追いかけ回す事にしか人生の喜びを感じれないどうしようもないクズだった。それ故に……これまで何十人ものバイトが辞めてきた。時には、その精神的苦痛から耐えられず、とうとうバックレてしまうものまでいた。




 そんな極悪非道で女の敵である砂羽流の新しいターゲット。それこそが……日下部日和だったのだ。




 ――ケケケ……この女、いい尻してるぜ。たまんねぇな……。



 今、彼の魔の手が……日和に伸びようとしていた……!



 ――貰ったぜ! テメェの桃尻!



 しかし……! 彼の魔の手が日和の尻に伸びたその瞬間、彼女の体が突然、砂羽流の予想に反した動きをした。




「……すいませ~ん。トイレ何処ですか?」




「はーい!」


 なんと、日和は物凄いスピードでお客様対応に向かって行ってしまった。そのあまりの対応の早さに砂羽流の伸びかけていた手が本能的に引っ込む。



 ――チッ……。運に救われたか……。しかし! 次は逃さん!




  砂羽流の情熱は、まだ終わらない。日和がお客様対応から戻ってレジの前に立った。



 ――ケケケ……次は、もう逃がさねぇぜ。その桃尻……貰ったァァァァァァァ!




 砂羽流の手が次こそはと……再び日和へ伸びて行った。しかし、またしてもその時だった。今度は、レジの裏の厨房の方から大学生2人組のバイトの子達から日和は、声をかけられたのだ。




「日和ちゃん、次はちょっとだけデザートでも作ってみようか」




「はーーーーーい!」



 日和の体がレジからくるっと反転。すると、そこには何故か店長の姿があり、2人は見事にご対面。若干不自然に伸びかけていた砂羽流の右手を急いで引っ込めた。




「……いや! こっ、これは違うんだ!」



「え?」


 咄嗟に出てしまった砂羽流の言葉に日和は、全く何の事か分からない様子。しかし、今の日和にとって店長などどうでも良かった。それよりも彼女の頭の中には今、大学生の女の子2人に仕事を教えてもらえる。そして、あわよくば……彼女達のあんな所やこんな所を覗く事ができる! ……なんて事しか頭にはなかった。


 日和は、あっさりと店長から退いて厨房へ向かって行った。彼女が、裏へ回った後、砂羽流はレジの前で1人立っていた。





 ――くっ……お、己ぇ……この俺が二度も触れないとは……。あの女、なかなかやる! しかし、ここで引くわけにはいかない! 





 砂羽流は、次の作戦に出る事にした。彼は、暖簾の隙間から見える女子3人の楽しそうなデザートづくりの様子を見て、邪悪に微笑む。よしっ! それなら……。




 砂羽流が、厨房の中に入って行き、そして女子大生の1人に話しかけた。



「……ごめん。君、ちょっとレジの方お願いしても良い? デザートづくりを今日やっちゃうならそのまま簡単な調理とか俺、教えちゃうから」




「え? ……でも」


 この女子大生には、分かっていた。砂羽流の魂胆なんて……。それは、女の勘だった。本能的に彼女は今、この男がヤバイという事を察知した。




 しかし、砂羽流も引かない。彼は、女子大生の後ろに回って喋りかける。




「……大丈夫。この子は、きっちり俺が教えるから……」


 砂羽流の声が少しねっとりとしたものに変化した。その恐怖に彼女は怯えた。そして、砂羽流の魔の手が彼女にまで伸びかけたその時……!




 砂羽流の手が、何者かの手によって弾かれた。いや、誰かの手と重なった。



 ――何!? 誰だ!



 彼が、手の先にいる人物を見てみるとそこには、物凄い形相で睨みつける日和の姿があった。



「ひっ!」


 砂羽流はこの時、彼女に恐怖感を覚えた。その余りに恐ろしい顔に砂羽流は、恐怖のあまり女子大生の傍から離れて、睨みつける日和の事をジーっと見つめた。




 彼女は、決して口には出さなかったが睨みつけたまま目だけで彼に言った。




 ――触り方がなってない! 出直して来な!



 日和には、最初から砂羽流が何をしてこようとしているのか分かっていた。しかし、日和も元々は、男。同じ男として……砂羽流のやり方は許せなかった。そう……同じ女の尻を追いかけ回す者として、”彼”は砂羽流の触り方が許せなかった。




 ――そんな独りよがりな触り方じゃダメだ! 今すぐ帰んな!




 彼女の目での訴えは、同じ女の尻を追いかけ回す者として砂羽流の心にもしっかりと届いていた。彼は、日和の……”女”に対する情熱と異質さ、そして恐怖心から足がガタガタになり……気づくと、店を飛び出していた。





「ごめんなさーーーーーい!」



 職場に残された彼女らは、ポツンと立ったままお店からいなくなる店長の姿を見ていた。









 ちなみにこの後、砂羽流はクビとなった。どうやら、砂羽流のセクハラをこれまで証拠として撮り続けていた者がいたらしく、その人が本社に証拠映像を提出した事によって砂羽流は、見事クビになった。後日、日和のいる店には別の店長が配属された。





 日和は最初、砂羽流がクビになったと知って正直、少しだけ悲しかった。




 ――あの目は……間違いなく私と同じ……。手さえ伸ばさなきゃこんな事にはならなかっただろうに……。くっ! もっと早めに私が厳しく教えていれば……。





 日和は、そんな事を思いながら今日もバイトをこなすのだった……。




次回『花火大会に集まる者達』

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