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六十三学期 バイトを始める者

「けっ、結局お金……一円も貰えなかった。というか、なんでパパは、私がキャバで働いてるって勘違いしてるわけなの? 私、オスになんて興味ないのに……」



 何処でそんな誤解を生むような失敗をしてしまったのか……。うーん分からない。家では、良い子として振舞ってるつもりなんだけど……。何がいけなかったのか。



 そんな事を考えながら私は、クローゼットの中に隠しているボディラインと胸元が強調されたエッチなドレスを見て、自分の心を癒していた。



 はぁ……。私には、これ位しかないというのに……。エロい格好して興奮するか、ギャルゲー開いて興奮するか、それしか私にはないというのに……。パパとママは、まるで理解していない。いや、まぁ……両方ともパパとママには内緒の趣味なんだけどさ……。




「……はぁ、それにしてもお金かぁ。どうするかなぁ……この際、何処かでバイトでも……」



 そう思った私は、携帯のロックを解除して求人サイトを開いてみる。検索欄には当然、自分の地元を入力。まぁ、バイト如きで遠出はしたくないからね。


 検索をかけてみると、意外にもかなりの数がヒットした。いや凄い……。バイトってこんなに沢山の種類存在するんだな。てっきり、レジ打ちだけがバイトかと思っていたが……そうでもないみたいだ。なんだか、世界が少しだけ広がったような気分になった。




 さて、しかし……ここからどうするかだ。正直、候補はかなり多い。高校生歓迎で地元と検索条件はかなり絞ったはずなのに、それでもまだ候補数は多い。




 どうするか……。一体、どのバイトに申し込むか……。うーん。凄く迷う。私は、しばらくスマホの画面と睨めっこをした後、深呼吸をして目を見開き、そして最初に見たものをタップした。




 正直、よく分かんないし……ここはノリと勢いで良さげなのを試してみるのが一番良いでしょ!


「……んーと、どれどれ」


 カラオケ店のバイトです。高校生歓迎! レジ打ちと食べ物を運ぶだけの簡単なお仕事です。……なるほど。時給は、まぁ普通って感じか。ここにしてみるか。



 その後、私は名前や諸々を入力した履歴書のデータを送り、面接の日程を決めて行った。そして、その日の求人活動は、終了した。



 いやぁ、たったの数分とはいえ……ちょっと疲れるなこの作業。少し仮眠をとるか……。








 数日後、面接が始まった。行く前にパパとママがドレスは、ダメ! というので、仕方なく普通の服で行く事になった。私は、地元のカラオケ屋さんの中に入って行き、そこのお店の人に話しかけると中から店長らしき中年の男がお店の奥から姿を現した。彼は、私の顔を見るや否やにっこり微笑んで告げた。



「……待ってました。とりあえず、お部屋で待っていてください」



 と言われて、部屋で待つ事3分。すぐに店長が来て、ニッコニコの笑顔で私に2つだけ質問をしてきた。そして、それらが終わると店長は、私の顔をジーっと見てきて、それから大きな声で言ったのだ。




「……うん。君、採用! 今度からよろしくね」


 あっさり決まった。てっきり志望動機とか色々聞かれるのかと思っていたが、何もなかった。むしろなんか、学校何処なの? と趣味とかあんの? しか聞かれなかった。まぁ、私にとって趣味を聞かれる事が一番難しいのだが……。今回は、女の子らしくお洋服見るのが好きなんですって答える事にした。反応は、まぁ特に変な風には思われてなさそうだったし、むしろ私が着ているこの服を誉めてくれた。まぁ、これ……水野s……じゃなくて瑞姫ちゃんに選んでもらったやつなんだけどね。




 そんなこんなで、いつから出勤するのかを話し合った後に私は、その日バイト先から去る事にした。いやぁ、それにしても人の良さそうな店長で良かった。バイト先も今日見た感じ、女の子ばっかりみたいだし……ぐふふ。またしても私のサブスク(見放題)が拡張された。ぐへへへ……!





















 バイト希望の日下部日和さんが帰った後、店長であるこの私は1人、休憩室の椅子に座ったままファイリングした履歴書の写真を見て、ニヤついていた。




「ぐふふ……またまた、可愛い子が入ってきた。たっぷり可愛がってやらんとなぁ……。ぐへへへへ」

次回『闇を知った者』

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