六十二学期 水着を欲しがる者
一か月が経過した。いつの間にやら外の蝉の泣き声もうるさい季節になってしまっていた。私、日下部日和は自分の部屋のベッドの上で寝転がっていた。部屋は、クーラーがきいていて、凄く快適。私は、手に持ったスマホをいじりながらあてもなくネットサーフィンに時間を費やしていた。
いやぁ、だってこの暑さじゃ何にもやる気起きないよ。一応、水野さ……じゃなくて瑞姫ちゃんや愛木乃ちゃん達から遊びに行こうってお誘いも頂いているわけですが……いやぁ、他の日はなるべく家でゴロゴロしてたいよね。なんたって、この暑さ。何かするとしても積みゲーを片付けるとかそんな程度かな。正直、後は何もしたくない。
はぁ、でもまぁ……皆、色々遊んでるみたいだしなぁ。愛木乃ちゃんは、家族と旅行に行ったみたいだし、法隆寺さんはスイスにいる両親の研究を手伝いに行ってて、んで……水野さ……じゃなくて瑞姫ちゃんは、たまに会長と買い物に出かけているらしい。
「……」
やっぱり、まだ慣れないな。瑞姫ちゃん呼び。なんか、緊張するというか……。一応、あの映画デートの日の夜に私達は、仲直りの印(?)として名前呼びにするってしたんだけど……。やっぱり、前世の童貞を未だに引きずっているこの私にとって、女の子のちゃん付けは、物凄く恥ずかしい。緊張はするし、なんか……なんか、恥ずかしい。慣れない。
だって、前世では女の子を苗字で呼ぶ事すら恐れ多いみたいな感じだったんだよ。それがさ、水野さんとか竜安寺さんとか苗字呼び出来てるだけでも私にとっては、成長なわけで。
まぁ、でも私もきっと変わらなきゃいけないんだろう。今となっては、私も童貞デブサイク男ではなくなっているわけだし、ちゃんと美少女として彼女達と友達として接していかなきゃいけないか。
と、まぁ……ネットサーフィンをしながらそんな事を考えていたわけだけども……うむ。やっぱり暇だ。どうしようかな……。まだお昼をちょっと過ぎたくらいの時間だし……このままネットサーフィンをするのもなぁ。かといって今日は、ギャルゲ整理をする気分でもないし。うーん……。
と、その時だった。私の視界の中にある広告が入って来た。そのネット広告には、凄く際どい布地面積の少ない水着を着た美女の姿が写っていた。うん。いかにもエロ広告。男だったら反応しちゃうね。まぁ、私も反応するけど。
平然とクリック! 見た感じ怪しいサイトではなさそうだし……。一体なんだろうなぁ……。と、していると携帯の画面の中にとある通販サイトが表示される。
おっ、これは……フリマサイトみたいな感じか。なんだか、色々な水着が販売されているみたいだけど……おぉ!
私は、フリマサイト内に表示されている水着たちに目を通した。なんと、その数々の水着たちは、どれも際どく……中にはほとんど紐でできているような凄まじい水着まで存在した。
「……おぉ! いいなこれ! 黒の胸元がクロスしてる水着! うんエロイ! これは、もうたまらんわ~。あ! この白い水着も良いなぁ。……いやぁ、この白水着は絶対AVとかに出てくるスケスケ水着でしょ~。くぅ!」
普通の女の子なら自分の部屋でこんな親父臭い事を言ったりしながらネットサーフィンを楽しんだりはしないだろう。しかし、私は違う。私は、何を隠そう元男。そして、今もこの心は一匹のオス。エロいメスを見ると股間は反応しないどころか、そもそもないが……心が躍ってワクワクしてしまう!
「……おぉ! これは、後ろが紐だけのスリングショット! なっ、なんて素晴らしいんだ! 今日は、この水着着てるモデルの子で良いかもしれない!」
当然、いけないのだが……。まぁ、でもこの水着たち良いなぁ。凄く欲しい。全部カートの中に入れるか。……んで、合計でいくらだ~?
刹那、私の携帯の画面に表示された金額は、予想外の価格となっていた。
「え!? 水着15点で24000円!? たっか! ぼったくりだろ! たかが、布切れだぞ! なんなら紐だってあった!」
いや、いやいや……だがしかし、だからといってこの中からいくつか選んで買うのを諦めるというのも……私のスケベ心が許さないな。だって、どれもより取り見取りのエロエロ素敵な大切な水着たちだ! 部屋に飾っているだけでエロい! 自分で着てもエロい! それなら買うしか……いや、しかし……おっ、お金が! くぅ……どうする? パパにおねだりするか……。
というわけで、私は下に降りてパパの元へ……。
「ねぇ、パパ~欲しいものがあるんだけど……」
私は、癖で手に持ったままだった携帯をパパと自分のいる間に置いてパパと話をした。
「ん? 欲しい物? なんだ? 言ってみ」
リビングでくつろぎながらテレビを楽しんでいたパパが一度テレビを消して私の方を向いた。
「……うん。えーっとね、ちょっと新しく服を買いたくて……」
流石にエッチな水着が欲しいだとか言えないし……ここは、それっぽい事を言って……。
「……服? いくらするんだい?」
「えーっと、24000円……」
「2万!? そっ、それはまた高いものを……。まぁでも、日和はいつもテストとか学年一位とってきてて偉いからご褒美に買ってあげよう」
「ほんと!?」
「あぁ、良いよ。お金を渡せば良いかな?」
「うん! やったー! ありがとうパパ!」
そうして、パパが自分の会社用バッグの中から財布を取り出して、中からお金を取り出そうとした次の瞬間、私が置いた携帯が鳴り、一件の通知をキャッチした。
その通知は、さっきの通販サイトのもの。あぁ、そういえば……色々登録した時に通知もオンにしちゃったんだっけ。……えーっと、どれどれ……。
――貴方の選んだ商品 ”スケスケスクール水着ホワイト” が残り一点となりました! 買うなら今すぐ!
え……!? まっ、マジか! それはヤバいって! はっ、早くパパからお金を貰って買わないと……。
しかし、その時だった。たまたまそこにパパの影が現れて、お札を握りしめたパパが私の携帯を見ていた。
「……へ?」
パパは、どうやら携帯の通知画面を見てしまったらしく、とても悲しそうな顔で私に言ってきた。
「……えーっと、日和や……その……スマホの画面に表示されている通知は、一体なんだい?」
「はっ、はへ!? こっ、これはその……何というかその……。ちょっとしたお楽しみとして……」
「母さん! 日和が今度はキャバ嬢からAV女優に転職しようとしているぞ!」
「ちがああああああああああああああああああああああああう!」
「何ですって!」
キッチンからママが飛び出してきて、結局私はこの後、パパとママから変なお仕事するのはもう辞めなさいと説教される事になったのであった……。
次回『バイトを始める者』




