六十学期 勘違いする者同士
えーっと……ちょっと待ってくれよ。水野さんがさっき言った言葉をもう一度考えてみよう。
「愛木乃ちゃん…………好きでい続けて欲しいな」
ん? 私、こんな事言った? え? いやいや……確かに愛木乃ちゃんには、これからも友達でいて欲しいと思ってるけど……私、そんな愛の告白みたいな事言ったか?
そもそもあの勉強会の時って私は、確か……愛木乃ちゃんに説教臭い事言って場の空気を気まずくして……それで、トイレに行ったわけで……。そんな変な事を私が言った覚えはない。間違いなく。
と、すれば……水野さんのそれは、勘違いというわけになるが……それにしても凄まじい勘違いだ。一体、どんな言葉をどうやったらそういう勘違いが生まれるのだろうか……。
いささか疑問であったが、しかしそんな時私の脳内にあの時、自分が言っていた独り言の内容が入ってくる。
――愛木乃ちゃん、ゾウさんついてても自信を持っていつまでも自分の事を……隙でい続けて欲しいな。
あ……ああああああああああああ! これだ! 間違いない! これだ! あの時、私は独り言とはいえ……周りに警戒してゾウさんの部分を少し小さめに喋ったんだ。だから、たまたまそれを聞いていた水野さんには、ゾウさん~自分の事をまでが聞き取れなくて、それでああいう変な言葉になってしまったというわけか!
私は、たちまち水野さんの誤解を晴らすべく彼女の目を見て真っ直ぐに告げた。
「……違うよ! 水野さん! それは、誤解だよ! 私、そんな事一言も言ってない!」
しかし、それでも彼女は全く信用してくれなかった。水野さんは、頬っぺたを紅く染めて、膨らませだした。その仕草が普段なら可愛いと感じれたのだが……今は何処か怖く感じた。彼女は、言った。
「……じゃあ! なんて言ってたんですか! あの時の日下部さんは、木浪さんの事をなんて言っていたんですか!」
「……そっ、それは……」
言えるわけねぇだろ! それ言ったらこっちだって命があぶねぇんだぞ! そんな最重要機密事項をここでばらせるわけないだろう!
だが……そうは言ってもやはりこの場で何とかしなければならない。よしっ。嘘でも良いからとりあえずその……愛木乃ちゃん、好きでい続けて欲しいなの間に来るうまい感じの言葉を……。
って、見つかるわけねぇ! ゾウさん云々の所があまりにもフィットし過ぎててこの間に入る丁度いい感じの言葉が何も見つからねぇ! やっ、やべぇ……どうしよう。このままだと……。
すると、目の前の水野さんは私の予想通り暗い顔を浮かべて下を向いた。
「……やっぱり、そうだったんですよね。……私を傷つけないために今、必死になってくれているんですよね……」
「いっ、いやそうじゃなくて!」
「良いんです。もう……良いんです。私は、所詮それまでだったんです。ははは……でも、良かったです。今それが分かれば……」
彼女は、完全に諦めた顔をして私から立ち去ろうとしていた。それを見て……私は、何か怖さを直感した。このまま彼女を行かせてしまったらもう2度と水野さんとお話もできないし、遊ぶ事もできない。このままだと……私達の友達関係が完全に終わってしまう……!
「……待って! いなくなろうとしないで! 私、まだ……もう少し水野さんと一緒にいたい!」
それは、私にとって友達として水野さんにかけた言葉だった。……しかし、これが後に大きな悲劇を生む事になるとは、この時の私には全く思いもしなかった。
次回『その名を呼ぶ者』




