五十九学期 修羅場に立つ者ら
その日の帰り道、私と水野さんは帰り道の途中で千昼ちゃん達と別れた。あの3人は、家が皆近いらしくて、それでいて全員が私達と別方向になってしまうらしい。そんな都合の良すぎるようなお別れを果たした私と水野さんは、その後一緒に家に着くまでの間の道を歩いていたが、そこに前まであったような楽しい会話のようなものは、当然なかった。
私達は、もう2か月ぶりの沈黙が続いたまま歩き続けていた。こんな事は、入学してすぐの時以来だ。水野さんとは、最初は凄く気まずかったが、同じクラスでクラス委員も一緒と言う事もあって時間と共に話題もどんどん広がって行って、つい最近まではむしろ一番話しやすいなんて思っていたのだが……今となっては、むしろ逆だった。
運動会が終わってから私達の間の仲は、引き裂かれたようだった。何がいけなかったのか……私は、一体何をしてしまったのかと少し心配になる一方、彼女から理由を聞いてみたかった私は、自分の中だけで考える事を一旦やめにして、勇気を出してもう一度水野さんに話しかけてみる事にした。
まぁ、そうは言ってもいきなり本題から入るのもちょっとあれだし……。
「……今日の映画は、凄く面白かったね。私、あぁいうラブロマンスな映画は普段映画館で見に行ったりしないから凄く新鮮だったよ。主演の男の子が凄くカッコよかったよね~」
よしっ。ありきたりな女子~って感じのトーク。心は、乙女じゃなくても私にだって乙女っぽい事を喋る事はできるんだぞ~なんて。
「……そうですね」
「……?」
水野さんの返事は、私が思っていた以上に素っ気ないものだった。私との会話が全く興味ありませんと言わんばかりのその対応に私は、少しイラっときたが、今はこの気持ちを心の中にしまい込んで、ジーっと耐える事にした。危ない危ない……おそらく全国の男性達が、女性に対して不快感を覚える瞬間ベスト3に入るであろうこういう状況。私は、冷静に冷静に深呼吸をしながら耐えた。今ここで怒ってしまえば、今日あった事が全部だめになってしまいかねない。まずは、水野さんが今どうして怒っているのかをゆっくり見ていく必要がある。
「……そういえば、最初に食べたご飯も美味しかったよね。あのレストラン、今度はさ……皆も誘って一緒に行きたいよね」
「……!」
この言葉に水野さんが若干反応したのが、私には分かった。早くも食いついたようだ! よーしっ! このままうまい感じにこの子の抱えているものを解決していければ……と思った私は、更に喋り続けた。
「……皆は、何を食べるんだろ。興福寺さんは、おそらく庶民のご飯なんて~とか言うのかもね。あの人、お金持ちだったと思うし。それで、《《愛木乃ちゃん》》は……きっとあの和風ご飯セットを頼むと思うなぁ」
「……!」
水野さんの体が更にピクッと反応したのを私は、逃さない。彼女は着実にこっちの言葉に乗せられている。良いぞ良いぞ……。この調子だ。
「……それで、デザートは皆でパフェとか食べてさ。甘い物を食べた後に今度は、少しお散歩して、ショッピングモールで買い物して……皆、1人1人試着室に入ってさ……」
んで、この時に試着室に入った愛木乃ちゃんと興福寺さんのおっぱいをチラッと拝む……。ぐふふ……あっ、いけね。今はそういうエロい妄想をしている場合じゃないんだった。
しかし、私がこの数秒の間エロ妄想に捉われていた間に水野さんがついに口を開いたのだった。
「……そうですね。楽しそうです」
相変わらず、素っ気ない態度。さっきまでピクピク反応していたのに……。やっぱり何か不満があるのだろうか。それは、やっぱり私に対して何か思う所があるのか……。
はっ! まさか、私が愛木乃ちゃんや興福寺さんみたいな巨乳の女の子のおっぱいばかりに目がいっていたから……それで嫉妬を!
と、その時だった。隣を歩いていた水野さんが私の顔を少し覗き込むようにして言ってきた。
「……日下部さんって、どうしてそんなに木浪さんと仲が良いんですか?」
「え……?」
水野さんは、自分でそんな事を言っておきながら、しばらくして気まずくなったのか一度喋る事を辞めて口を閉じ、少ししてからもう一度喋り出した。
「……ごめんなさい。なんでもないです」
しかし、私も既に水野さんの疑問が耳に入ってきていて、答える準備ができてしまっていたから私は、つい水野さんの言葉に被せる様な形で言ってしまった。
「……友達だからかな。同じ悩みを持った友達同士だから。だから、仲が良いんだと思うよ」
これが良くなかった。こんな風に女の子の言っている事に被せて自分の意見を言ってしまう事。これこそがおそらく良くなかった。そのせいか、水野さんの顔がさっきよりも複雑になって、とても我慢できなさそうな少しイライラも感じる様子で私に言ってきた。
「……同じ悩みを持っていないと日下部さんは、仲良くしてくれないんですか?」
「え……?」
何を言ってるの? 私には、よく分からなかった。今、目の前でこの子が言っている事の意味が……。しかし、水野さんは変わらず続けた。
「……日下部さんは、同じ悩みを持たない私や金属寺さんと木浪さんとで凄くその……違う気がします。それって、やっぱり……同じ悩みを持っていないからですか? 私じゃ、ダメなんですか?」
「え……? え? ダメって……いやいや! 私は、そんな……《《愛木乃ちゃん》》が良くて《《水野さん》》は、ダメみたいなそんな事は……」
「じゃあ! どうして、いつまで経っても私は、《《水野さん》》のままなんですか! 私、日下部さんとは同じクラスですし、クラス委員も一緒なのに! どうして……どうして信頼度は、私の方が下なんですか! どうして、私はいつまで経っても名前で呼んでくれないんですか……」
「……水野さん、そんな事で……」
「そんな事じゃありません! 私にとっては、すっごく大切な事なんです! どうして分かってくれないんですか! ……どうして私の事……一度も瑞姫って呼ぼうともしてくれなかったんですか……」
「……」
「だいたい、お家で一緒にお勉強した時だって……日下部さんは、言ってました」
「え……?」
私、何か言ったかな……。いや、あの時は居眠りをしてしまうとか完璧美少女らしからぬ事をしてしまっていたような気はするけど……まさか、その勢いで変な事を口走ったりなんか……。
しかし、次の瞬間水野さんの口から出てきた言葉は、思いがけないものだった。
「愛木乃ちゃん…………好きでい続けて欲しいな。……これって、何なんですか! この言葉は、一体どういう事なのですか! 日下部さんは、本当に木浪さんと友人なのですか! どうなんですか!」
「……」
え……? えぇ……。
次回『勘違いする者同士』




