五十七学期 探す者探される者
「いらっしゃいませ~」
お店の人の挨拶が聞こえてくる中、私と千昼ちゃん、夜宵ちゃんと渚朝ちゃんの4人は一気にお店の中に畳みかけてくるかの如く一斉に中へ入った。そして、私はさっき自分達が座っていた入口のすぐ目の前に見える2人席の方を見つめた。
しかし、そこにはさっきまで座っていたはずの1人の女の子の姿は何処にもなかった。
「……あれ? いない?」
私は、そこでどうしたのかと心配になり、すぐにお店のレジの機械の後ろに立っていた店員の女性に声をかけた。
「……すいません! あの……さっきあそこに座っていた女の子は……」
すると、店員さんはにっこりと営業スマイルを浮かべながら私達の事を見て言った。
「……あぁ、あの子ならさっきお会計済ませて帰りましたよ。確か、あそこを通って行っていたようなー……」
店員さんがそこまで説明してくれたのを聞いた私達4人は、すぐにお店の中から出て行こうとした。出て行く直前に私が店員さんにお礼を述べ、私達はすぐに水野さんの後を追いかけるべく走り出したのだが、しかしここで私は思った事を述べた。
「……あれ? この道、水野さんの家とは反対の道じゃ……」
すると、そんな私の一言に夜宵ちゃんが何かを察したように喋り出す。
「……じゃあ、水野さんは一体今何処に?」
「……分からない」
私が素直に今の気持ちを伝えるとそれを聞いていた渚朝ちゃんが言った。
「……それなら水野さんを皆で手分けして探しましょう!」
そう言うと私達は、4つに分かれてそれぞれの道を走り出し、水野さんを探す事にした。
*
何か悲しい事があるとよく行く場所というのが、誰しも一つはあるはずだ。私にもあった。私の住むこの町の駅の近くにあるとある公園だ。
この公園には、噴水がついており、水の音がとても美しく鳴り響く、私は昔からこの場所が好きだったようで、よくお姉ちゃんと2人で出かけに行っていたらしい。
そんな公園の噴水の近くにある長椅子に腰かけて水の音を聞きながら深く深呼吸をして、今日会った事を振り返る。
確かに……今日の自分はとてもから回っていたのかもしれない。いや、ここ最近……日下部さんとどうも前程うまくいかなくなった。前は……体育祭の前はかなり順調というか良い感じに仲良くなっていったのに……どうも体育祭が終わってから……。
ふと、私の脳内にこの前の中間テスト勉強会の途中で日下部さんが言っていた事が思い出される。
「愛木乃ちゃん…………好きでい続けて欲しいな」
「……」
あれは、なんだったんだろう……。木浪さんと日下部さんが仲が良い事は知っているが……どうして。どうしてなのだろう……。
そういえばあの時からだった。あの時から少しずつ日下部さんとの間に距離を感じるようになった。なんだか、うまくいかないと感じるようになった。
「……どうしよう」
私は、ぼそっとそう告げる。すると、その時ふと私の耳元に聞き覚えのある人の声が聞こえてくる。
「……いた! 水野さん!」
振り返ってみるとそこには、ちょっぴり汗をかき、呼吸を荒くしながら携帯を片手に電話をかけようとしている千昼ちゃんの姿があった。
「……」
私は、彼女になんと声をかけて良いか分からずその場で何も喋らないでいる事にした。
次回『気まずい者ら』




