五十六学期 反省する者ら
――私は、どうして……こうなってしまったのだろう。
それだけが本当に分からない。私はただ、友達が教えてくれた方法を試してみただけだったのに……。いや、日下部さんの言っている事は凄くよく理解できた。理解はできたが、しかしやっぱり理解できない。どうして、私はあそこで日下部さんと別れてしまったのか……。正直、そこまでの事をした覚えはなかった。
「……」
私に魅力がなかったからなのか。映画が詰まらなかったからなのか。私が今までずっと日下部さんに譲っていた事が理由なだけなのか……。
でも、それは……デートする時において大事だと私は聞いた。
――それをする事で自分をもっとよく見せれると……思っていた。
なのにどうして……。その時、私が座っていた席の向こうの入口のドアが再び勢いよく開けられたのが分かった。誰が出て行ったのかは見ていないから分からなかったが……。私は、そんな1人取り残されてしまった喫茶店の中でもったいないと思って最後までブラックコーヒーを飲む事にした。
「……日下部さん」
下から滲み渡るこの苦みが私の中で切ない思いを掻き立てる。少しずつ放心して止まっていた心がコーヒーの温かさによって溶け出し、苦みによって突き動かされる。私は、気づくと目から涙が出てきそうになっていた。
失敗してしまったのだろうか……。私。
*
喫茶店を出て行き、真っ直ぐと自分の家に向かって歩いて行っていた私、日下部日和は、溜息なんか零したりしていた。
自分でも分からなかった。どうして、あんな事を言ってしまったのか。あそこまで言う必要はなかったはずなのに……。
――前世の自分なら絶対もっと大人な解決方法を思いついていたはずなのに……。どうしてなんだろう。あれじゃあ、水野さんを傷つけてしまう。
自分の口から出てしまった言葉に今更責任を感じていた私が、罪悪感のままに歩き続けていると、ふと後ろからとある人物達に声をかけられた。
「……日下部さぁぁぁぁぁぁぁん! 待ってぇぇぇぇぇ!」
振り返ってみると、そこには朝に出会った見知った人物3人が走ってここまでやって来ているのが見えた。
「……千昼ちゃんたち……? どうしたの? こんな所で?」
すると、走ってきた3人は、それぞれ息をぜーはーぜーはーと荒く呼吸を終えた後に告げた。
「……ごめんなさい! 私が悪いの! 全部私が……変な事言っちゃったのが悪いの!」
「え……?」
千昼ちゃんは、そこから私に説明してくれた。今回のデートの真相を一から丁寧に。
なるほど。だから、お出かけする最初の駅にいた時、後ろから誰かに見られている感覚を覚えたわけだ。あれは……千昼ちゃん達が後ろでずっと見ていたから。そして、同じクラスの水野さんが友達と遊ぶのが初めてでそれをサポートするためにずっとついて来ていたと……。
「……って、いう感じの認識で良いの?」
「うん。そうなんだ。それで、私その……水野さんに変な事を教えちゃって……」
急に千昼ちゃんの顔が暗くなる。どうしたのだろう? さっきからずっとちょくちょく暗い顔をするが、問題はここからなのだろうか。私は、聞き返したりはせず、ゆっくりと彼女が自分から口を開いてくれるのを黙って待った。すると、千昼ちゃんは、少ししてから口を開いた。
「……ごめんなさい! 私なんだ! 水野さんに相手にあわせろ! って教えたの。あの子は、ただそれを行動に移しただけで……だから、本当に悪い事をしたのは、私だったの! ごめんなさい! でも、私……このまま2人が仲悪くなっちゃうのは嫌で……。せっかく、水野さんと仲良くなれて……日下部さんとももっと仲良くなりたいし……」
千昼ちゃんの説明は、ごちゃごちゃしていた。それだけ本人が今、焦っていると言う事なのだろう。しかし、私には理解できた。彼女が今苦しんでいる事が。その上で私は、千昼ちゃんに告げた。
「……大丈夫だよ。気にしてない。私も水野さんには少し言い過ぎたかなって思ってたし……ねぇ、もしよかったらその……このまま家に帰るのもなんだか嫌だし、一緒について来てくれる? 水野さんにさっきは、言い過ぎたって謝りたいんだ」
すると、千昼ちゃんと彼女の後ろに立っていた夜宵ちゃん、渚朝ちゃんの3人は、同時にコクリと頷いた。千昼ちゃんが告げた。
「……当たり前! 行きましょう! 私も水野さんに謝りたいし!」
かくして、私達4人はもう一度さっき通った道を戻って、喫茶店のある場所を目指して走り出したのであった――。
次回『探す者探される者』




