五十二学期 お出かけする者達
「……くっ、日下部さんって、映画とか普段見るんですか?」
「……んー、まぁたま~に見に行くかな。でもまぁ、最近は映画といったらやっぱりネットで見ちゃうかなぁ」
「……あぁ、そうですよね。私も小さい頃はお父さんとかに連れられて映画館で見ていましたけど、最近はもう家でサブスクつけて見てる事が多いです」
「……《《水野さん》》は、どういう映画が好きなの?」
「……わっ、私は……大体何でも見ます! ただ、その……恥ずかしいんですけど、ホラーは苦手で」
「あぁ、分かるよ。私もホラー映画は苦手でさ。あんまり見ないんだよね」
「日下部さんは……そのっ……どういう映画が好みなんでしょうか?」
「……うーん。私は、そうだなぁ……。私も結構何でも見るんだけど……最近見たのは、真昼の決闘っていう白黒の映画なんだけど……」
「……白黒ですか!? 日下部さん凄いですね! 私、そんな古い時代のものは、全然見ないです!」
「……まぁ、お父さんがそういうの好きでさ。たまにテレビとかでやってると見てるのよ。それをたまたま見かけて、気づいたら私も一緒に~みたいな?」
「ご両親と仲が良いんですね」
「……そういえば、《《水野さん》》のご両親は普段何をやってるの?」
「……うーん。普通に会社員なんですけど、パパ達は仕事の都合でよく転勤するんです。そのせいで、家にもあんまり帰ってこないし、小さい頃は両親の都合でよく色々な所を引っ越していました」
「……そうなんだ。《《水野さん》》の家って所謂転勤族だったんだね」
「はい……。だから、今まではあんまりこれといってお友達とかできた事がなくって……でも、高校生になってからこの町にお姉ちゃんと一緒に住む事になって、パパやママと会えないのは、凄く寂しいですけど……でも、お姉ちゃんがいてくれるし、それに……日下部さん達に出会えて私、今が凄く楽しいんです」
「……そっかぁ。なら、良かった。ねぇ、もしよかったらさ……夏休みもこれから近いだろうしさ、今度は会長も誘って何処か行こうよ」
「良いですね! お姉ちゃん、今年は受験の年で生徒会と勉強で忙しそうですけど、受験勉強の合間にでも行けそうだったら誘ってみますね!」
「ありがとう。よろしくね~」
私と水野さんは、そんないつもと変わらないような会話をしながら2人一緒に並んで駅前の映画館まで歩いて行った。そのひと時は、なんだかいつもの下校や登校の時とは違った感じで凄く楽しかった。
――最初の頃は、お互いに話の途中で気まずくなったりする事が多かったけど、今ではかなり変わった。お互いに同じクラスという事もあってか、2人で話をするのが最近は凄く楽しい。
まぁ、それに……水野さん可愛いし、話してるだけで癒しだよ。ぐふふ、おじさんはね君みたいな可愛い女の子とお話しできて毎日とっても嬉しい限りですよ~にゅふふ。まぁ、しかもこの子意外と抜けてる所があってね、たまにこう……座ってる時とかにたまたま下を見たらパンツが見えちゃってる! みたいな事がわりとあってね。にゅふふ、おじさんそういうドジっ子属性大好物なんでやんすよ。へいへい。
「……あっ! 日下部さん! 見えて来ましたよ! 映画館です!」
そんな風にいつも通り変態おじさん構文を使って色々とやましい事を思っていると隣を歩いていた水野さんが小さい子供のようなノリで私の手を突然ギュッと握って引っ張ってはしゃいだ様子で走り出した。
――って、いや! いやいやいや! ちょっ!? ちょっと待つのじゃ! お手々を!お手々をつないでしまった! こっ、これは……こんな事されちゃったら、世の男は、皆勘違いしてしまうですよ! かくいう私も美少女の皮を被った童貞。……いやぁ、この手のぬくもり……ごっつぁんです! 後で、たっぷりと楽しませていただきやす!
私は、そんな調子で水野さんに引っ張られるままに映画館へと向かっていき、2人で映画館の前にある機械を使って席の予約を取ることにした。
私達の見る予定の映画は、午後の15時。なので、まだ時間に余裕はあるため、ひとまず今は席の予約だけ取る事にして、私達はその後お昼ご飯を食べにレストラン巡りをする事にしたのであった……。
*
日下部さんと瑞姫ちゃんの2人のデート姿を後ろから追いかけながら追跡をする私=千昼は、今同じクラスの友達の渚朝と夜宵の2人と一緒に3人で水野さん達の事を追いかけていった。
「……がんばれよぉ。瑞姫ちゃん……」
私が、電柱の裏でそんな事を言っていると隣では渚朝と夜宵がコクコクと頷いていた。
前を歩く日下部さんと瑞姫ちゃんが映画館の席を予約し終えて、外に出てくるのを確認すると私達は、すぐに近くの電柱の裏に再び隠れて、様子を見守った。
「……私たちもできる限りのフォローをするよ!」
「……そうだねぇ」
「……頑張ろう!」
渚朝と夜宵も同じ気持ちのようだ。私達は、次に2人が訪れるであろう場所に先回りする事にした。
次回『背中をそっと押してあげる者』




