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五十一学期 着替える者

 私が、もう一度家の中に戻って来た事を両親が驚く暇もなく見知らぬ3人の女の子達と一緒に部屋へ上がって行った事に目を丸くしていたのは、あの後すぐの事だった。



「……すみません。お邪魔します! ちょ~っと、日下部さん借りますねぇ~」



「……え!? ちょっ! ちょっと!?」



 私は、訳も分からず後ろから夜宵ちゃんと渚朝ちゃんの2人から押されて、強制的に玄関から階段へ……行かされそうになっていた。そんな様子を両親は、ポカンと見つめており、母親は彼女達に顔中「?」を浮かべたような顔のまま聞いたのだった。



「……えっと、貴方達は?」


 母の問いかけには、私の靴を脱がしたり、前から手を引っ張ったりしてスムーズに私の部屋へ戻そうとする千昼ちゃんが答えた。



「……あっ! 同じクラスの友達です! ちょっと、たまたま日下部さんの家を通りかかったらドレス姿の日下部さんを見かけて、これから舞踏会にでも行くのかと尋ねた所、違うって言うんで、この意味の分からない格好を着替えさせようと思いまして!」



「え!? 意味の分からないって……そんな事ないよ! 凄く綺麗な格好じゃない! よく言うでしょ! 女が人生で一番似合う服は、ウエディングドレスだって! それを意識した服装だよ!」



「あーはいはい」


 千昼ちゃんは、凄く雑な態度で受け答えをする。まるで私の言う事なんか聞いてないかのように……。




「……おっ、お母さん! お願い! この子達を止めて! 私これから友達と遊びに行かなきゃいけなくて……」




 しかし、母の様子は私が思っていたのとは大きく異なっていた。むしろ、感動する映画を見ている時のように千昼ちゃんの言葉に涙を流し、嬉しそうに喋り出した。



「……まぁ! 良かったわ! 日和もこれで……キャバ嬢の仕事から解放されるのね!」



「……え!?」


 訳が分からなかったが、その隣では父も同じように感動して涙を流していた。



「……うぅ、最近いつも……友達と遊んでくるというたびに……こんなキャバクラの嬢みたいなドレス姿で外に出て行ってしまって……お父さんもお母さんもお前の事が凄く心配で心配で仕方なかったけど……ようやく、ようやく日和にも止めてくれる友達が現れたんだね!」




「あなた! 持つべきものは、やはり友ね!」



「そうだね!」



 そうだね! じゃないわ! 何とかしろ! この格好は、アタシにとって一番綺麗な正装なんだぞ! 




「……はっ、はなせええええええええええええ!」







 しかし、いくら抵抗しても3人は止まる事なく2階の私の部屋へと突き進んで行った。そして、部屋の中に連れ込むと私の部屋のクローゼットを勝手に全開にした。



「……あっ! こっ、こら! 私のクローゼットを勝手に……って、あ……」



「……さぁ、もっとデートに適した服装にしていくよ! ……って、あ」



 千昼ちゃんが思いっきり開けた私のクローゼット。そこには……私が今まで集めてきた秘蔵のコレクション達の姿が存在していた。




 ピチピチの黒いレオタード、露出の激しい紐ビキニ、ちょっぴりエッチなメイドの格好……バニー……などなど。全て私が、成長期に入った頃に買い集めていた秘蔵のエロコレクションの数々。どれも……いつか成長した時にこれを着て……自分の成熟しきった女体で楽しもうとお小遣いをコツコツ溜めてネットでポチった思い出の数々だ……。





 そして、他の誰にもこれを見られた事はなかった。……家族でさえも。それをついに……初めて見られてしまったのだ。





 私のコレクションを見て、千昼ちゃんは顔を真っ赤にして乙女らしく騒ぎ始めた。その甲高い悲鳴は、部屋中に巻き起こり……私の耳をも貫いた。



 そして、隣では千昼ちゃんほどではないにしろ顔を真っ赤にして恥ずかしそうに私のクローゼットをガン見していた夜宵ちゃん。




 また、彼女らと正反対にとても興味深そうにクローゼットの中を見ていた渚朝ちゃんの姿があった。



 渚朝ちゃんが、私に言った。



「……ほほ~、なかなか良い趣味をしていらっしゃいますなぁ。日下部さん」



「えへへ~、そうかしら~」




「「んなわけないでしょ!」」


 そんな私達2人に対して千昼ちゃんと夜宵ちゃんが2人同時にツッコミを入れた。そして、すぐにそのクローゼットの奥深くから千昼ちゃんは、前にGWの時、一緒にショッピングモールで買った服を引っ張り出して、それを私の前に見せてきた。




「……これくらいしか、まともな服がなさそうだけど……もうしょうがないわ! 2人とも両手を抑えて!」




「は~い!」


「らじゃー」


 夜宵ちゃんの少しふわふわした返事と渚朝ちゃんのノリノリだけど抑揚のないちょっと抜けた感じの返事が両サイドから聞えてきて、次の瞬間に私の視界を服が覆った。




「ぎゃあああああああああああああああ!」














 ……と、いう感じで私は今ここに立っているわけだ。着替えが終わった後に千昼ちゃん達は、用事があるからと言って何処かへ行ってしまい、その後は私一人で走って駅まで向かったわけなのだが本当は、ドレス姿でかなり余裕を持ってここに到着して、完璧を装いたかったのに……。それができなかった。とほほ……。


 そんな時だった。向こうから水野さんの声が聞こえてくる。



「……日下部さ~ん!」



 彼女は、小さな足でテクテク走りながらこっちへやって来て、まるで小さいリスのように一生懸命走って来た。私の前に到着すると、少女はとても疲れた様子で呼吸が乱れながら喋りかけてきた。



「……はぁ、まっ……まっ……はぁ……待ちました?」



 一旦、落ち着け。口には、出さなかったが、心の中でそんなツッコミをかわしてから私は、ゆっくりと答えた。




「……ううん。私も今来た所」


 本当は、嘘~……と言いたいところだったが、今回はわりと本当であるから悲しい。すると、そんなこんなで呼吸を整え終えた水野さんが、私に言った。


「……それじゃあ、行きましょうか!」


 私は、コクリと頷いて返事を返し、そして映画館へと向かって行った。しかし、映画館に向かって行こうとする直前で、私は自分の後ろにある電柱の辺りから誰かの気配を感じ取った。




「……?」



 誰だろう。……誰かに見られているような……。




次回『お出かけする者達』

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