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四十八学期 中間テストを制する者

「それでは、テスト開始ィィィ!」


 何処かの地下格闘場が舞台の漫画に出てきそうな声で担当の教師が掛け声を発すると、途端に教室中の生徒達は、紙を裏から表へひっくり返し始める。そして、次々と……周りの人達がペンを片手にカチカチと芯を向きだして、紙の上を滑らせていく中、私はとてもゆっくり体を伸ばしたりしながらテストの紙に手を伸ばすのであった。



 さぁ~て、まぁやるとするかなぁ~。どうせ、簡単な問題ばっかりなんだろうけどさ……。



 テスト開始からまだ30秒も経っていない頃、早速私は小さなあくびが漏れてしまい、ついつい口を片手で覆ってしまった。しかし、まぁこのまま解かないでねむってしまうのもまずい……。



 仕方ない。解いてやるか。……数学ねぇ。




 私は、かったるそうに紙を表向きにひっくり返し、ゆっくり名前を書く。まぁ、この名前をゆっくり書く事にもちゃんと意味はあるのだ。それは、名前をゆっくり書く事で時間を稼げるからだ。私は、テスト位なら10分程度で全て解き終わってしまう。だが、そうすると残り40分も何もしない時間ができてしまう。だから、名前を書く事に時間を費やさねばならない。





 一文字一文字……丁寧に……。正月元旦の書初めのように。ここは、はらい……はね……全て完璧に。完璧美少女というのは、名前一文字一文字もこだわって書く必要があるのよ! もしも、仮に名前をこだわらないで適当にでも書いてしまったら……。




 私の脳内で……とある2人のギャル先生のやりとりが思い起こされる。




「……ねぇねぇ、せんせぇ~……日下部さん、名前チョー適当なんですけどぉ?」




「うわぁ~、マジじゃ~ん! 自分の名前もろくに綺麗に書けないとか……人格終わってるわぁ~」



「それなぁ~、マジ……人間の恥って感じ~? テストのたびに生き恥さらしてるとかマジおもろいんですけど~」




「……アタシなんか、名前書く時ようにいっつも毛筆装備してるしぃ~」













 …………きっと、職員室でこういう噂になって……私の完璧になるはずの成績表が……オール5確定演出の成績表が……オール1に!?




 そっ、それだけは、回避せねばならん! だからこそ、名前は丁寧に……ていねーーーーーーーーーいに書かなければ。




 息を荒くしつつも私は、しっかりしっかりとシャーペンを動かしていく。そして、しばらくして……ようやく私は、テストを解く事に集中する事となる。





 さて、まぁここからは……いつも通りぱぱっと解いていっちゃえば問題なく終わ……。



 しかし、そんな時私は、あるものを目にしてしまい、体が固まってしまう。





 いっ、いや……! そんな馬鹿な。こんな事……あり得ない! どうして……!? 















 それから、何十分かしてテストは、終了。私の元に水野さんがやって来て、いつもの調子で喋りかけて来てくれた。




「……日下部さん! どうだった? なんだか、ちょっと難しかった気がするんだけど……」



 しかし、私には彼女の声など届いてはいなかった……。私は、ただ固まって……。ボーっと前を見つめているだけだった。そんな私の事を心配した水野さんが心配そうに言葉を発した。



「……日下部さん!? どうしたの!? 大丈夫!? 何かあった? もしかして、さっきのテスト……」




「……あっ、あぁいや……大丈夫よ。ちょっと、考え事をしていただけなの」



「……日下部さん」



 心配そうに私の事を見つめてくる水野さんであったが、しかし引き続きテストは

続く。私は、次もその次のテストも……ずっと、同じ衝撃を受け続けた。……ついには、次の日も含めて全ての教科のテストで衝撃を受ける事となったのだ。




 そんな私の姿に流石の水野さんも私の事を心配したのか……テストが終わった日の帰りは、一緒に帰ろうと言ってくれた。




 私達は、一緒に並んで歩いていた。しかし、会話はない。私は、昨日と今日の全てのテストで受けた衝撃が忘れられなくて……ずーっとぼーっとしていたのだ。そんな私に……水野さんが優しく言ってくれた。



「……大丈夫ですよ。日下部さん……。まだ一回目です。これからいくらでも……挽回できますよ!」




「……」






 すると、そんな私達の元に一台の黒いリムジンが通りかかり、私達の横を通り過ぎて行こうとした……と、思ったら完全に通り過ぎる前に急停止して、私達のいる所へまでバックしてきて、そしてリムジンの窓が開く。すると、中から見知った少女が1人顔を出す。……松本城さんだ。



「……あらぁ~。日下部さんじゃないですこと。調子はいかが? あらぁ? その表情だと……もしかして……テスト、うまく行きませんでしたか? まぁ、日下部さんはテスト勉強もろくにできませんものねぇ~。それで、入試の時はよく学年主席をとれましたわね。……でも、わたくしは今回逆にテストは、ばっちりですわ。入学して早速、順位交代ですかね! おーほっほっほっほっほっ!」



 そう言い残すと、安土城さんは車の窓を閉めて、リムジンを走らせて帰って行ってしまうのだった。



 残された私は、その場に立ち尽くした。そんな私の事を心配そうに水野さんが見つめる。




「日下部さん…………」





 その日は、それで……終わってしまった。





 それから、数日後。学校の廊下に各学年の順位が張り出される。それを見に学校中の生徒達が寄せ集まり、わらわらとそのテスト順位表を見ては一喜一憂する。


 そんな中、金髪縦ロールの1人の少女が、生徒達の群れに対して自身のボディガードを使って、生徒達をスマートに退かせると、彼女はそこに張り出されている紙を見つめた。




「……うふふ。さぁ~て、わてくしは今回、何位ですこと? まっ、日下部さんが消えた今、わてくしの順位など決まり切って……」




 しかし、その少女が目撃した順位は、なんと……。




「……2位!? にっ、ににににににににににににににににににににん!? 2位!?」



 と、少女が驚いている頃に私もようやく順位表が張り出されている紙の傍を通りかかった。……といっても、そろそろ朝のHRが始まるからトイレから教室に戻っていただけなのだが……。




 金髪縦ロールの少女こと、大阪城さんが某カードゲームのライフ減少音みたいなのを口で再現している時に私はたまたま順位表をチラッと見た。



「……あっ、一だ」


 そして、すぐに教室へ向かって歩いて行こうとすると、そこに大阪城さんが走ってやってきて、私に尋ねてくる。



「……ちょおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっと! ちょっと待ちなさい! 貴方! どうして!? 前なんか、マジで目が死んでたはずですわ!」





 こんなお嬢様でも「マジで」とか使うのか……。いやまぁ、そんな事はどうでも良いか。



「……うーんまぁ、解ける問題しかなかったので……」




「はまあああああああああ!?」


 驚く江戸城さん。でもまぁ、そうなんだよね。解ける問題しかなかったから全部解いただけだし。




「……じゃっ、じゃあ! この前のあの落ち込んだ顔は、一体……何なんでしたの!?」




「……あぁ、あれ? あれは…………」



 どうしよう。前世でやったテストと問題が丸々全部一緒で衝撃受けてただなんて流石に言えないよなぁ……。うーん……。




「……予想していた通りに問題が出てくれて、逆にちょっと心配になってただけだよ」





「……」





「それじゃあね、皆もそろそろ行かないとHR始まっちゃうよ!」


 そう言うと、私は教室へ戻って行った。残された大阪城さんは、ポツリと立ち尽くし……ぼーっと立ち続けた。





「……そんな事……ある?」




 大阪城さんから最後に漏れた言葉は、これであった。




 かくして、私達の中間テストも無事に終了したわけである!



























          おまけ



 テストの結果が張り出された日の夜、私=水野氷は、生徒会の仕事を終えて家に帰って来た。やたらと凝った肩を腕を回したりして解し、部屋に入ってゆっくり寝転がった。



「……はぁ、久しぶりの感じがするなぁ。今日は、ゆっくり眠るとするわぁ~」



 テストも無事1位を獲れて、今回も一件落着な私だったが、ふとここで1人の女の子の事が頭の中に浮かんでくる。



「……そういえば、火彩は…………」


 気になった私がスマホに手を伸ばしたその時、同時にスマホがバイブレーションを起こして鳴り出した。


 画面を見てみると、ちょうど今から連絡を入れようと思っていた相手から電話が来ている。




「……なんか、嫌な予感……」


 恐る恐る私が……電話に出てみる……。




「……はい。もしもし、氷だけd……」



「うわああああああああああああああああああああああああんん! 氷ちゃああああああああああああん! また、赤点だったよぉ~!」




 ――やっぱり……。火彩が自分から電話をかけてきた辺りでもう察してた。



「……あんなに勉強したじゃない? どうしてなの?」



「……それがね、実は……その……あの日、日下部さんに朝会った時、”酒を飲んでない!” って驚かれたじゃん」



「……そうね」



「……それで、テスト終わったら記念に飲もうと思って鞄の中に隠してあったスーパートライの缶を見てね、確かに言われてみたら……私ってテスト期間中ずっと飲んでなかったなぁと思って、それで一口だけなら……と思って、その……ついその……飲んじゃった……」






「…………」





「えへへ。……いやぁ、だって美味しいんだもん。ビール……。氷ちゃんもきっとはまるよ? 大人になってみ?」



「……酒カス」





「ああ! ちょっ! ちょっと待って! 電話切らないでぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええ! 分かった! 私が悪かったからああああああああああ!」


 火彩が電話越しにガタガタとテーブルをひっくり返したような音が聞こえて来て、それと同時に周りにいた居酒屋の店員らしき人が慌てて、駆けつけている声もした。



「……お客様! やめて下さい!」



「店内で暴れないでください!」





 それを聞いて私は、すぐに電話を切った。


「はぁ……」





 それから、深い眠りにつく事とした。





 ――お風呂は、明日で良いや……。

次回『約束を取り決めた者』

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