四十五学期 悲しい者
――台所に行き、お茶を汲み終えた私=水野瑞姫は、二階の自分の部屋へ戻ろうとしていた。すると、そんな時に目の前でトイレから出て行く金キラ寺さんの姿が見えた。
――ちょうど、良い感じそうかなぁ……。お茶とついでに……しょっぱいお菓子と甘いお菓子を1つずつ……っと。
そうして私が、キッチンで用意をし終えてもう一度、二階の自分の部屋へ戻ろうとキッチンから出ていく。すると、キッチンと廊下のちょうど境目に位置する開きっぱなしのドアと暖簾のある場所にやってきて立っていると、今度は上から日下部さんが階段を下ってくる。ドタバタと足音を立てながらどうしてだか……彼女は、慌てた様子でぶつぶつと何かを喋りながら階段を下りて玄関の近くにやって来ていた。
――トイレの場所が分からないのかなぁ……。
私は、お盆の上にのったお菓子とお茶を持ったまま日下部さんのもとへ歩いていこうとする。
全く、真後ろにトイレって書いてあるのに……。ふふふ……。
心の中で私は、少し微笑んだ。いつも学校の中でしっかりしているのに……こういう時だけ抜けている感じが……なんだか、可愛く見えた。
そして、私が彼女のそばにやって来てトイレの場所を教えようとした時、ふと日下部さんの言葉が一つ……ぼそっとだけだが、私の耳に入ってきた。
「愛木乃ちゃん…………好きでい続けて欲しいな」
「……!?」
え……? え?
「……あっ、あれ!? 水野さん?」
ここでふと、私の存在に気が付いた日下部さんが体をくるっと回転させて私の方を向いてきてくれた。彼女と目が合い……何を言うべきだったのかと頭の中がごちゃごちゃになる。
「……」
そうすると、次第に日下部さんの方がどうしたのかと固まって私の方を見ていた。そして、彼女の口元がふるっと一瞬だけ動いて半開きにも満たない微妙な開きを見せたところで私の脳裏に次に本来言うべきだったセリフが浮かんできて、それを咄嗟に言った。
「……とっ、トイレ! トイレは……トイレはっ! そこにっ。あります」
日下部さんは、私のセリフを聞いた途端に改めて、ハッと驚いた様子で急いで私の後ろに存在するトイレへ駆け込み、その中へ入っていく。ドアを閉めていく過程で日下部さんは、私の方を向いて「教えてくれてありがと~」と告げるのだった。
「……」
残された私は、片手に持ったお盆が段々……重みを増してきて、どうしてだか持っているだけで少し辛かった。
――また、木浪さんか……。
私の心にもやもやが生まれる。そのまま重たいお盆を持ち上げながら重たい足で会談を駆け上がった。
「……私は、まだ水野さんなのに……」
階段を上っている最中に、私はお盆の上にのっているお皿に入ったしょっぱいお菓子を一つこっそりつまんだ。
――喉、乾いたな……。
そんな事を思いながら私は、部屋の中に入っていった。
次回『すれ違う者達』




