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三十八学期 抜き去った者

「はあああああああああ!」


 全速力で残りあと少しとなった校庭のコースを走り抜けていく2人の少女。そろそろ、真っ直ぐな道も終わりに近づいて来ている頃、最後のファイナルコーナーに差し掛かる所で……少女達は、声を上げて走り抜いている。お互い本気で……気持ちも気力も……体力も全部をぶつけあって……この最後の勝負をしているのだ。そこには、まるで映画や漫画にあるような過剰すぎる表現が垣間見えるようなそんな激しい激突であった……。











 ――と、まぁ……見ている他の人達には見えている事だろう。間違いなく。もしも、そう見えているというのならそれは……私が女として生まれ変わってから磨き上げてきた演技力の賜物だろう。ふふふ……。



 まぁ、私の隣を走る法隆寺さんはどうなのか分からない。もしかしたら、メチャクチャ本気で走っているのかもしれない。お疲れさまだね。




 しかし、私は……残念ながら違う。私が、声を上げて走っている理由は、至極単純だ。



 それは、今自分の隣で走っているこの金髪高飛車女の揺れ動く2つのおっp……お胸だ! これを隣という最高の特等席でジーっと見つめる事によって……走りながら揺れている横乳を……ガン見できるのだ!



 素晴らしい! 実に素晴らしい揺れだ! まるで……本当にプッチンプリンのようだ! 



 私も女に生まれ変わってから……自分の胸を磨き上げようと必死に努力をしてきた。育乳のために……この人生を捧げてきたつもりだ。しかし! 私は気づいてしまったのだ。私がどれだけ……どれだけ頑張っておっぱいを大きくしたところで……結局私が、この鍛え上げた大胸筋を拝む事ができるのは……上からでしかできないと……しかし、それではダメなんだ! 前世で男をやっていたからこそ分かる! おっぱいとは……おっぱいとはだ……上から谷間を覗くのも勿論素晴らしいが……それ以上に……もっと、あらゆる角度から多面的に……そう! 多面的に見なければそれは、もうおっぱいではない! それは、ただの谷間に過ぎないのだ! そうじゃない! おっぱいとは……もっとあらゆる角度からその弾力と……柔らかさと形と……存在を味わわねばならない! しかし、私がどれだけ頑張って大きくしたところで……大きくにしかならない! 鏡を使わなきゃ、前を向けない! 上から見た谷間しか見えない! いけないのだ! それでは……それではダメなのだ!





 100年以上前、この世に天才画家のパブロ・ピカソが誕生した。彼が編み出した技法は……キュビズム! そして、その最初に描いたキュビズムの作品の名前こそ……「アヴィニョンの娘たち」とかいう一見すると意味分からん絵である。凡人ならおそらく……この絵を最初に見た時、なんだこのドブス集団は! とか失礼極まりない事を内心思うかもしれない。この絵の凄さに……気づく事はできないだろう。”俺”も前世ではそうだった。名前は知っていたが……ばかばかしいと思った。何がキュビズムだと……。しかし、女になった今だからこそ……ピカソの偉大さに気付けた。




 キュビズム……それは、あらゆる角度から見た図を全て一枚の絵に収めるという技法。そして、アビニョンの娘たちにもそれが取り入れられている。この絵には、裸の女達が描かれているが……。おそらくピカソは、天才であるが故に気付いたのだ! 一枚の絵の中に女の体の魅力の全てを詰め込みたい……と。しかし、それはとても難しい。女の体の魅力とは、角度が違えば違った魅力が出てきてしまうものだ。だが、それをやってのけたのが、天才ピカソ! 彼は、やったのだ。あらゆる多面的な女の体の魅力を全て……一つにまとめ上げた! ただの一枚絵では一部分しか見る事のできないおっぱいの姿も……これによって、より多面的に味わえるようになったのだ! これは、私の中で……一つの革命だった。第一次おっぱい革命とでも言うべきだろう!





 と、まぁ……そんな感じで……つまり、私一人の力では限界がある。より多面的におっぱいの魅力を探るためには、様々な人の協力が必要になってくるのだ。




 そして、今……目の前に現れた。隠れ巨乳。横乳揺れ……。素晴らしい! こんな素晴らしい事はない! これのためなら私は……何処までも……何処までだって走っていられる! 私の脳内シャッターが止まらない!




「ほわあああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!」





 おほぉ~! 揺れる揺れる! ぽっこぽこ揺れる! おほほほぉ~!




 この瞬間に興奮しまくる私は、必死で走っていた。いつもの私の……早朝ランニングとトレーニングの時の私なら……この程度の生ぬるいスピードで走る事などはっきり言って……歩いているのとほとんど変わらない。しかし、ここで実際にあくびでもしながら走っていたなら……それこそ私の完璧美少女っぷりが崩れてしまい、この一か月の間に築き上げたものが全部おじゃんになってしまう。そうならないためにも……ここは、私が全力で走ってる風に見せて……最後の最後でやっと抜けられたっていうドラマ性をつけないといけない! そのためにも今のこの大変! 私、すっっごく頑張ってるのよ! っていう演技は、やり続けなければならないの!









 ――皆の為に……私の為に……そして、おっぱいの為に!





「……うほおおおおおおおおおおおお!」


 隣を走っていた禅昌寺さんが、言った。



「……くっ! この期に及んで……なんて人ですの! そこまでして勝ちたいの!? 貴方!」





「えぇ! そりゃあ、勝ちたいわよ! やっと、ここまで来たんですから! ここまで来たら……最後までやり通すしかないでしょ!」




「……くっ! 分かりませんわ。わてくしには、貴方みたいに皆で頑張ろうとか……そう言う事を本気で考えている人の考えなんて……分かりませんわ!」




「……へ? あっ、あぁ……そう」


 正直、おっぱいに集中し過ぎて……何言ってたか知らんけど、まぁこういう時はそれっぽく返事返せばそれでオッケーよね! そろそろ、コーナーも終わるし……あと少しでゴール……。このコーナーが終わったその時が勝負よ。





 もう飽きる程……いえ、ごめんなさい。訂正するわ。飽きる事はないけれど……とにかく!


「もう沢山、貴方の《《真の実力》》は、見させてもらったわ。だからここからは……私の全てを賭ける!」




「……なっ、なんですって!?」


 このお嬢様は、一体何を驚いているのか知らないが……私は、コーナーが終わるや否や一気にギアを全開まで上げて……仏閣時さんを追い抜いた。そして、一気にゴール付近まで走り去って行く。




「……いけぇぇぇぇぇぇぇ!」


 周りから応援する声が聞こえてくる。それも……女子達からの声援! ふふふ、そうよ! これを待っていたの! この桃色の歓声! この声を聞けば私は……何度でも! 何度だって! 戦えるのよ!




「……待ちなさい! 簡単に一位を譲るつもりなどありませんわ! わたくしだって、貴方に……」




 後ろから極楽寺さんが、声をかけてくるが……私は後ろなど一切振り向かずに突き進む。一気に最後のゴールテープが目の前にある所まで走り、そして告げた。




「……ごめんなさい。勝たせてもらうわ。楽しかったわよ。また、やりましょうね。須磨寺すまでらさん」



 次の瞬間、私の胸の先っちょがゴールテープに触れる。この時、ちょっとくすぐったくて内心、声をあげそうになった事は……この先の人生の中で一生の秘密である。






 かくして、私達の波乱の体育祭は、これを持って全種目が終了となった――。

次回『優勝者』

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