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三十七学期 本能に支配されし者

 ――後少し……本当に後少しだというのに……もうちょっと頑張れば、この人を追い抜いてゴールインできるというのに……。



「……どうしたのかしら? 日下部さん……なんだか、具合悪そうよ」



「……本当だわ! 大変……もしかして、走っている最中にお腹壊しちゃったのかしら?」




「……おいおい! そりゃやべぇぜ!」



 クラスの皆も私の事を心配してくれている。なんだか、すっごく心配そうな顔で私の事を見ているけど……いや、でも……こればっかりは本当にマジで申し訳ない。こればっかりは……もう自分でもどうしようもない本能なんだ。今の人類がサルの時代からある本能として誰かを蹴落としたり、集団から仲間外れにしようとしたりする……こう言う事をどうしようもなくやってしまうのと同じように……”俺”にだって男だった頃の名残がある。そして、もうこれはどうしようもなく治す事のできないある種病のようなものでもある。




 近くにおっp……御山が2つ見えれば、当然視線は釘付け。そこから意識が離れるまでちょっとばかし時間がかかっちまう。……それが、男ってもんだ。本当にどうしようもないんだ。こればっかりは……。





 ましてや、それが……今まで何の興味も湧いてこなかった女の子が、ある日突然……某特撮ヒーローばりの大変身を遂げてみろ! そんなもん……そんなもん見ちまうだろ。いや、愛木乃ちゃんじゃないけど、もしも私に今……生えてたら、多分パオンして……最悪…………いっ、いや。いかん! こんな事をこれ以上、妄想する事も良くない。今は、リレーなんだぞ。乳なんて、後でいくらでも見れるじゃないか! それに……ここで優勝すれば、後でいくらでも……楽しめるじゃないか! 




 その時、私の心の中に2つの光と闇が誕生して、言い争い始める。




「……そうよ! 今は、皆のために優勝しなきゃダメよ!」


 天使の輪っかが付いた方の私がそう言ってくる。……うん。確かにそうだ。やっぱりここは、頑張って追い抜いて……勝たないと。




「……あぁ? 別に良いだろ? 今見てぇんだったら見ちまえよ。考えてみろ。ああいう隠れ巨乳キャラはな……制服を着た途端に今までのがまるで嘘のように胸元が平清盛になっちまう。今だけだぜ? 走って……揺れて……柔らかそうに跳ねまわっているこの瞬間を収められるのは、下手したら今だけだぜ? えぇ?」



 くっ、くっ……くぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! 確かに……! 確かにそうだ! 悪魔の格好した私の言う通りだ! 金閣寺さんのパイ……! 財閥の1人娘のゴージャスおっぱいを拝めるのは今日が最後かもしれない! そう思うと……くぅぅぅぅぅぅぅ! 余計に目が離せん! たまらん!




「……こら! 貴方には、やる事があるんでしょう? ここを最後まで走り切らないと……掴めないわよ! 最後までやるって決めたのなら頑張らないと……!」




「……うるっせー! 良いんだよ! もっと楽しみたいだろ? 他のクラスの女どものなんてもう散々見ちまってて飽きただろ? でも、今この瞬間は……もしかしたらこれで終わりかもしれねぇんだぞ! それなら、見るしかねぇだろうがよ!」




「……いいえ! 違うわ! 貴方は、今ここで勝って……平穏な学生生活を送りたいんでしょう? だったら……」





「……それだって、結局は女体を拝みたいってだけだろ? だったら、量より質を求めたいだろ? クラスの連中のより……目の前の事の方が良いだろ! なぁ!」





 くっ……。くっ……くぅぅぅぅぅぅぅ! 私の中の本能Aと本能Bが対立している! どっどうすれば……どうすればぁぁぁぁぁぁぁぁ……!







「……大変! 日下部さんの顔色が、余計に悪くなってきてるわ!」



「本当だ! こりゃあ、まずいぜ!」


 クラスの皆の心配する声。……いや、本当に不味い状況なんだよ。この究極の選択……どちらを選ぶ事が正解なんだ……。私は、一体どうすれば……。どうすれば良いんだ!





 その時、ふと私の頭の中で一匹の悪魔が囁いた。




「……おい! だったら、良い方法があるぜ! お前ら、ちょっと耳貸しな!」



「……え?」


 なんだ? 私と天使ちゃんが悪魔の言葉に耳を傾げると、悪魔はとてもニヤニヤした顔で私達にこう告げてきた。




「……それならよ、ゴールするギリギリまで隣のパイ寺さんのを見るんだ。そうやって、心のボルテージを上げて行ってだな……。しかと目に焼き付けると……そして、ゴールするギリギリの所で……一気に全速力でダッシュ! そうすりゃあ、一位も獲れて、おぱいも眺められる! 一石二鳥ってやつだろ!」






「「……お前、天才か!」」





 大喜び、大満足の様子で天使ちゃんが、悪魔に言った。


「……貴方って本当に天才ね! 良いじゃない! それで行きましょう! それなら、双方の意見をうまくまとめられていて……最高ベストアンサーです!」



「だろ? もうこれ以外ねぇよなぁ?」



「ええ! そうね! そうしましょう! それで行きましょう!」




 かくして、私達の作戦方針は、決まった。作戦名は……プランH! 私は、とても真剣な眼差しでパイ寺さんの2つの北山を拝む事にしたのだった……。





















 ――リレーも半分以上を走り終えた所まで来た私=金閣寺・F・恋金は……今、正直かなり余裕を感じていた。何故なら、それは……ちょうど私の隣をぴったりついて来るように走っているもう1人のアンカー……日下部日和さんの調子が悪いみたいだからだ。





 確かに……彼女は、残り半分くらいの所から段々、勢いを失いだした。さっきまでの走る勢いを失いだし……失速しだした。そして、そこから徐々に顔色も悪くなってきた……。




 おーほっほっほっ! どうやら、日下部日和さんは既に限界……。どうやらこの勝負、時間の無駄のようね! 後は、最後の最後に本気を出して走り抜いてしまえば……完全にわてくしの勝利……。





 どれどれ……戦意も喪失してきている貴方の絶望の表情をわてくしに、お見せなさい! た~くさん、後で罵ってあげますわ!




 しかし、私がそこで日下部さんの方をチラッと見てみると、そこにはとんでもなく恐ろしい姿があった。






「……すー! はー! すー! はー!」



 そこには、これからローマのコロッセオを縦横無尽に暴れ回ろうとしている暴れ牛の如く、とてもつもなく恐ろしい殺意剥き出しの恐怖の顔をした日下部さんの姿があった。



「……ヒエッ!」


 私は、彼女のその姿を見て、つい……一瞬だけびくっ! と背筋を凍らせて、僅か0.5秒ほどの間だけ固まってしまう……!







 いっ、いえ……これは、なんて恐ろしい顔なの!? まさに猛牛。お父様にスペインに連れて行って貰った時に少しだけ見た闘牛のショーに出てくる大きな牛のようだわ! こんな本気で私とリレーをしているだなんて……気づかなかった。どうやら、私はまたしても……日下部さんの事を甘くいていたんだわ! くっ……悔しいけれど敵ながら、なんとあっぱれなのでしょう! 尊敬しますわよ! わたくしの良きライバルとして……。




 

次回『抜き去った者』

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