三十六学期 最後の走者
「さぁ、ついに学年対抗リレーも最後となりました! アンカー最初は……3組の日下部さん! そして、この後に4組……2組と続けて走り出しました! アンカーは、校庭を一周します! 皆さん頑張って下さい!」
放送部のやる気なさそうな棒読み演技を聞きながら私は一位を独走。最終コーナーを駆け抜けていた。
声援が聞こえてくる。自分のクラスの仲間達、それから上級生の声。
皆の期待を私は背負っていた。こんな事……前世の自分じゃ想像もつかなかった。きっと前世じゃアンカーに走るだなんて事も出来なかっただろうし、誰かの声援を受けて頑張るみたいな主人公っぽい事もこれから先できなかった。
本当に……自分は変われたんだなって……この学校に入ってから少しずつ自信として私の中に蓄積されていった。
私が勝ちたいと願う理由は、きっとクラスの人達が聞いたら不純過ぎてドン引きされるだろうが……しかしそれでも良い。表向きだけでも目的が一致しているのなら今はそれで良い……!
──それだけでも充分頑張れる!
「……!」
最初のコーナーに差し掛かった所で私の後ろから聞き覚えのある人の声が聞こえてきた。
「……やはり、最後はアナタと戦う運命にあるみたいですわね! 日下部さん!」
金髪の縦ロール。普段のお嬢様っぽいエレガントな感じとはうって変わって、鉢巻を巻いて全力疾走するちょっとアンバランスな感じの少女が接近してくる。
「……八坂神社さん、今回は……負けない!」
「……いいえ。今回ばかりは、わたくしが勝ちます。そのために今日まで私達のクラスは血の滲むような努力をして来たのですわ!」
「……それは、私達だって一緒! そして皆んながここまで頑張ってくれたからここまで来れた……最初はボロボロだった私達も今じゃ優勝を争う程にまでなった!」
私の脳裏に水野さんと火乃鳥先輩の姿が思い浮かぶ。そして……。
「……だから、最後を走る私が負けるわけにはいかない! 皆んなの活躍を締めくくる為にも私は!」
「……うるさいですわ! 皆んなとか仲間とかどうだって良いのですわ! 私はただ、貴方の弱点さえ知れれば良い。いいや、その為ならどんな事だって致しますわ!」
私と稲荷神社さんがコーナーを抜けて再びまっすぐな道に出る。そしてこの瞬間に内側を走っていた私はギアを一気に全力にして、護国寺さんを抜き去った。
「……あなたみたいに独りよがりな理由で勝とうとする奴に……私は負けない!」
なんか今自分の心も抉られた気がするけどまぁ良いか。このビッグウェーブに乗れてる今だから何言ったって……。
私が真っ直ぐな道を一気に走り抜けようとしたその時、またしても後ろから明治神宮さんが全速力で私の隣まで走り込んでくる。
「……だから何ですの! わたくしは、それでも勝ちたいのよ! 勝って……お父様達に認めてもらうのです!」
靖国神社さんが、私の隣まで走ってやって来た事に最初私は、ヤバいと危機感を募らせた。しかし、次の瞬間に私の頭はそれどころではなくなってしまったのだ。
──いっ、いや……これはまずいぞ……! かなりまずい。大事件だ。……くっそ……金閣寺さん、アンタ……まさか……。
私は走りながらなぜか生唾を飲み込んで、隣にそびえ立つ2つのお山を見つめる。私の目がそのお山を絶妙に相手にバレないさり気ない角度で固定され、そのままステイして見続ける。
それと共に私の走る速度はみるみる落ちて、金閣寺さんと並んだままになってしまう。
──ずるいよ。ここに来てそれは……ずる過ぎる! この女……何処までも厄介な奴だ!
私は、金閣寺さんのおっきい北山を2つ見つめたまま絶望しつつ、喜ぶというパラドックスを繰り広げながら走った。
──金閣寺さん、アンタ……! 隠れ巨乳だったのか……!?
次回『本能に支配されし者』




