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三十二学期 応援者

「……それでは、これより一年生クラス対抗リレーを始めたいと思います!」


 うるさく鳴る放送の音。一番を走る者達は位置につき、そしてバトンを片手に走る準備をする。



 この勝負で体育祭の勝者が決まる。それはすなわち……私のこれから先の人生が決まると言っても過言ではない。


 この勝負に勝って平穏を手にし、今まで通り女子達の様々な所を嗅ぎ舐めるように見れるか、はたまた……地獄を見るか。



 運命の勝負がついに……幕を開ける!




「……いけぇぇぇぇぇ! 3組!」



 クラスの他の子達も応援する。そして、その応援の直後にピストルが鳴り、走り始める。




 一生懸命走る人達と応援する私達。私の走る順番はアンカーだからかなり余裕はある。その間にたくさん味方を応援して士気を高めていく必要がある!



「……がんばれぇぇぇぇ!」


 すると、ちょうど今走っていた同じクラスの男子の耳が一瞬だけピクっと動いた気がした。



「……ん?」



 それと同時にその走っている男子のスピードが突然上昇しだす。



 いや、というか……上昇どころか……。



「……なんか金色のオーラ纏ってない!?」



 髪の毛も逆立って、凄まじいパワーを放ってるし……最早あれ……スー◯ーサ◯ヤ人だろ……? どんだけ気合い入ってんだ? もしかしてあの人も私と同じで誰かに秘密を握られてて……みたいな感じ?




 そんなこんなで彼はぶっちぎり一番でゴールイン次の男子にバトンをタッチした。



 よしっ! コイツにも応援してやるか。


「頑張れぇぇぇぇぇ!」


 名前は……まぁ良いわ。応援だけでも有り難いと思いなs……。



 ──刹那、走っている男子の速度がまたしても上昇。金色のオーラを見に纏い、髪を逆立たせる。



「……うおおおおおおおお!」


 すごい気迫がこっちにも伝わってくる。凄まじい速度に跳ね上がっていき、その男子も見事に一番でゴールイン。彼は頬を赤く染め上げた状態で走りきり、次の人へバトンが渡される。



 なんだ? なんか、今日はみんな気合い入ってるなぁ。




「……頑張れぇぇぇぇぇ」


 次を走る女の子も応援する。しかし……残念ながらこの子は前に走っていた2人の男子達みたいに髪が逆だったりはしなかった。



 いつも通り、2人に抜かされてゴールイン。いやまぁ、いつも通りの事だしまぁ良いか。




 次の男の子にも応援したら、気合いが天元突破。マックスを超えて駆け抜けていき、抜かされた2組を一瞬で抜き返す。




 ……あー。いや、何となく理解したわ。この現象。




 私の隣には同じくアンカーで待っている本能寺さんの姿がある。



「……どういう事ですの? 3組の男子達のあの異様なまでのやる気? 練習の時は普通だったはずですのに!?」




 彼女は、とても慌てた様子で3組男子達の異様な姿を目の当たりにしていた。……いや、本能寺さんだけじゃない。愛木乃ちゃんも他のクラスの人達も皆、口をポカンと開けて驚いていた。今、目の前でどんな事が起こっているのか……それがいまいち理解できていない様子だったのだ。



「……おかしいですわ。3組男子の50m走平均タイムも全て……こちらは、計測済みですのに……どうして、当日になってこれほどの力を……!」





 アンタ……いつの間にか、そんな事までしていたのかよ! いっ、いや……まぁ、良いや。私は、疑問のつきない様子の本能寺さんの様子を見て、カッコよく……ビシッと決めてやった。



「……皆の応援の力が…………男の子達を強くしているのよ!」



「……なっ!? なんですって!」



 本能寺さんが、辺りを見渡してみると……確かに私達3組は、一生懸命に応援して走っている人達の事を鼓舞している。それに対して本能寺さん達、2組は3組よりも応援の声が少ないのが明らかだった。私は、そんな彼らの様子を見て、本能寺さんに言った。




「……勝負は、最後まで分からないわ! 例え、練習で何度負けていようと……最後の最期で逆転する事だってある! だから私達は……最後まで応援し続けるのよ!」




「……くっ! 馬鹿な! そんな非科学的な理由で……わたくしのクラスが敗北するだなんて……! あり得ないですわ! だって、わたくし達は……練習の時から他クラスを圧倒しておりました! 今日だって、選手のコンディションは完璧のはず……」



 しかし、そんな負け惜しみの定型文を並べている本能寺さんの目の前で2組のクラスメイトが3組の男子に抜かれて行く様を目の当たりにする!




「……がんばれぇぇぇぇぇぇぇx!」



 私も一生懸命に声を出し、結果その人は一番でゴールインして次の人にバトンタッチする。本能寺さんは、とても納得できなそうな顔を浮かべており、私に言った。




「……そんな…………そんな馬鹿な!」



 悔しそうに下を向く本能寺さん。そんな彼女の姿を見ながら私は、更に応援を続ける……。





 いやぁ、本能寺さんにはあぁ言ったけど……まぁ、実際の所そんな主人公感あるカッコいい理由でも何でもないんだけどね……。




 私は、走り終わった男子生徒達の様子をチラッと見る。そして、彼らの会話を少し聞いてみると……。









「……なぁなぁ? 俺よ、実は走ってる最中に……日下部さんに……日下部さんに”頑張れ!”って応援されちまったんだ! これってつまりさ、日下部さん……俺の事好きって事じゃ……」




「……は? 何言ってるんだ? 日下部さんは、俺の走ってる姿を見て頑張れと言ってくれたんだ!」




「いいや! 違うね。俺だ! 俺の走っている姿を見て思ってくれたんだ!」












 ……と、まぁ何とも情けないオス共の醜い争いの声が聞こえてくる……。はぁ……なわけねぇだろ。タコ! 誰が、テメェらみたいな弱者男性に媚び売るか! 私は、ただ……アンタらを利用しただけじゃボケェ! まんまと騙されてくれて……ありがとうな! 分かりやすい奴らで助かったよ!





 そう、走っているクラスの男子達の走るスピードが突然上昇するあの現象の正体だが……それは、完璧美少女たるこの私が……全力で応援する事で、男達のあそこから全身にかけて強力に興奮させて、縄張り争いをしている時の野生のカバのように盛らせたからだ。





 無論、クラスの皆の思いが1つになってとか……皆の気持ちの力で……とか、そんな事はない。全て私の力だ。私の完璧っぷりで……クラスのオス共が勝手に盛って、やる気出しちゃっただけなのだ。私ってば本当に罪な女だわ! って所だろうか。まぁ、とにかく……これで、私達のクラスの順位は、一気に一位だ。このまま……この調子でいければ良いのだが……。








 ちなみに……この私の応援、実は弱点があって……まず、悔しい事に女子には通用しない。あんまり効果がないのだ。いや、マジで……意味わかんないんだけど……私の完璧っぷりにメスガキどもが盛ってくれないんだ。なんで? いや、メスこそ盛って欲しいんだが……。




 それから、これが個人的には一番ヤバイなと思っている事でもあるのだが……この応援作戦、実はとある人間の応援だけはマイナスの効果を発揮するという最悪な欠点があるのだ。







「……皆、がんばれぇぇぇぇぇ!」


 あっ、ちょうど今、煌木の声がしたな。それと同時に今走っているクラスの男子のスピードがみるみる落ちて行く。




 そう、つまり……このクラスの中で、煌木が男子を応援すると……男子達の気分が下がって足が一気に遅くなるのだ。やる気が失せるのだろうな。気持ちはよく分かる。私だって……あんな奴に全力で応援何かされたら……いやぁ、想像しただけでも吐き気がする。うげぇ。




 というわけだから……。うん。煌木、やっぱお前は口を開くな。負ける。

次回『ぶつかり合う者達』

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