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三十学期 留年者

 火彩先輩の覚醒は、その後も尋常じゃなかった。あの人は、あの酔っぱらいリレーの後もずっと酒を嗜みながら体育祭を無双しまくっていた。





 それは、学年別綱引きでも……。火彩先輩は、いとも容易く綱を引っ張って、数十秒で片をつけてしまった。



 なんなんだ……。あの人、ビールとか日本酒の瓶を片手にグイグイ飲めば飲むほど、綱がそれに比例してグイッ……グイッと引っ張られてた。流石に酒が強すぎる……。






 そして、更にそれは、騎馬戦においても……。火彩先輩は、慎重が小さく体重も軽かった事から上に乗って……次々と敵の帽子を取りまくっていた。そのあまりに華麗な身のこなしに相手の生徒達はキョトンとした目で驚いていた。




「……えへへ~。も~らいっ!」






 すっ……凄い……。あの手さばき、そして人の上に乗っているとは思えない位の素早い身のこなしに……次々と獲物を的確に捉えて行く変幻自在で且つ、正確な動き。






「……あれは、まさしく…………」



 前世でまだ小さかった頃、夢中で見ていたカンフー映画があった。酒を飲んでは、拳撃を叩き込み、次々と敵をなぎ倒しては舞のように美しくまう……最強の拳法。






「……酔拳! 間違いない! あの動き……あの俊敏で、正確で変幻自在な踊りのような動きは、間違いなく酔拳のそれだ! 火彩先輩は、まさか……酔拳の使い手だったんだわ!」




 私は、少年時代の熱い思いが心の底から沸き上がって来て、興奮した。しかし、見れば見る程……火乃鳥先輩のあの動きは、ほんっとうに酔拳のようだった。特に騎馬戦のあのクネクネした動き……蛇のようでいて、鳥のようでもあるあの動きは……まさに酔拳。あの人は、きっと中国の山奥で修業を積んでいたに違いない!




「……すっ、すげぇ! 凄すぎる! しかも、気づいたら騎馬戦……3組一位じゃん。ほとんど、帽子取っちゃってるから……」




 恐ろしい人材だった。まさか、ただの酔っぱらいなんかではなく、ちゃんと強いとは思わなかった。


 少年の頃のような興奮を1人の少女に抱いた私だったが、そんな所に……1人の少女が現れる。



「……な~に、興奮してらっしゃるの!」



 振り返るとそこには、金髪の縦ロールの髪型の上から黄色いハチマキを巻いた1人の少女が現れる。



「……あ、浅草寺さん」



「……金閣寺ですわぁ! いつになったら名前を憶えて下さいますの!」



「……いやぁ、ごめんごめん」




 謝る私の姿を見ていた浅草寺さんは、次第に野生の虎のようにグルグルと睨みつけて来て、首をプイっとそっぽ向く感じで横に振った後に告げた。



「……まぁ、良いですわ。そんな事よりも……あの2年生のアルコール中毒者は、何者ですの!? あんな人が学校にいまして? 反則ですわ! 大人を出すだなんて……」



「……いやぁ、大人って言われてもなぁ。あの人、あれでも生徒だし……」




「はぁ!? お酒を飲んでいるような年齢の人がまだ高校生をやってると? そんな人いるわけありません! 良いですか? 貴方は、ここがどんな学校か分かった上でそれを言っていまして? ここは、私立の中でも名門校とも呼ばれている……光星学園高校ですわよ! 偏差値は、かなり高くて全国から様々な人が受験しにくる程の学校。そんな所に……二十歳まで留年かましているような社会譜適合者が、入れるわけないでしょう! 仮にそんな人がいるというのなら……それは、この学校そのものの堕落を意味しておりますわ! はぁ、もし本当にそうならば、受験し直そうかしら……」





「……!」


 私は、浅草寺さんのその言葉に……少しイラっと来た。どうしてだか分からなかった。この人の言っている事は、確かに間違っちゃいないかもしれない。




 私も最初に留年と聞いた時は、少し思うと所もあった。だが……そもそも”《《俺》》”は、昔……卒業式の時に沢山の受験に失敗して浪人を覚悟して勉強を頑張り、そのために卒業式にも来ないで血の涙を流して必死に努力をする同級生たちの姿を見た事がある。彼らは、皆……社会の負け組なのかもしれない。だが、それでも必死に生きているし……社会の為でもなく、ただ自分のために出来る事をやろうとしている。



 そんな彼らの姿を見て《《俺》》は、カッコいいと思った事もある。





 すると、そんな俺に……浅草寺さんは一言、私の前で最も言ってはいけない一言を漏らしてしまう。



「……留年が移ってしまいますわ」



 ここで、私の心にも完全にスイッチが入った。もう許せなかった。いや、それ以上に何か言い返してやりたくてしょうがなかった。別に火乃鳥先輩とは、前に一回会っただけで、全然関りもない。けど、どうしてだか……私は、目の前のこの高飛車女に一言言ってやりたかった。




「……あなた、自分の髪の毛みたいにねじれ曲がった心してるのね」



「……!? なんですって!」



「……いつもいつも私に突っかかって来るのも……自分よりも学校の成績が良い私に嫉妬しているからでしょう? でも、ごめんなさい。今ので分かったわ。貴方じゃ、私には絶対追いつけない!」




「……!?」



「貴方は、火乃鳥さんの事を何も知りもしないのにいきなり最初から社会譜適合者だと決めつけた。目の前で大活躍していたあの人の事をそう言った。貴方は、まだあの人の1つの側面しか知りもしないのに……そう言う事を言って決めつけた。……そんな中でも先輩は、一生懸命に体育祭で活躍しているし、学校にも来た。私も貴方と同様に……あの先輩の事は何も知らない。どういう事情で留年してしまったのかとか、何も知らない。けど、少なくとも貴方みたいにいきなり、他者を切り捨てるような心の狭さは、持ち合わせちゃいない。……ねぇ、金閣寺さん? どっちが、本当に社不だと思う? 一生懸命に頑張れる人と……こんな所で応援もしないで相手のチームの生徒をディスったりしている貴方……。賢い貴方なら分かるわよね? だって、貴方は……この名門校で二番の成績を収めている優秀な生徒なのだから」





 鹿苑寺さんは、とても悔しそうな顔を浮かべて私の事を睨みつけてきた。私は、わざと彼女と目を合わせて睨み返す。両者は、ジーっと見つめ合い……そして、しばらくして鹿苑寺さんの方が私から離れて行き、背中合わせにこう言った。




「……次のリレー、最後の勝負ですわ。そこでお互いの気持ちに蹴りをつけましょう。それに……私のクラスが勝てば、約束通り……何でも1つ言う事を聞いてもらう

事になりますしね……」





「……」



 私は、何も言わずに先にリレーの準備に戻って行った鹿苑寺さんの事を見たりもしないで黙り続けた。





 ――それから、少しして……私の元に1人の少女(?)が現れる。




 赤い髪の毛を持った少女……火乃鳥先輩だ。彼女は、少し俯いており……何処かさっきまでと様子が変だった。




「……!? 先輩もしかして聞いてて……!」


 鹿苑寺さんの言っていた事が聞かれていたのか、ドキッと心臓が跳ねて鼓動した私だったが、先輩は私が何か言おうとするよりも先に……少し大きめの声で告げた。



「……ありがとう。…………ありがとうね。日下部さん」




「……」




 そして、次の瞬間にとても小さい声で私にもギリギリ聞こえない位の声のボリュームで何かを喋り出した。



「……すっごく、カッコよかった…………」





「え……? すいません。今、なんて……?」



 しかし、そんな私に火乃鳥さんは、突然顔を真っ赤にしてとても恥ずかしそうに興奮気味の声で言い返して来た。



「……うっ、うるさい! うるさい! うるさい! 良いから、早く次の種目の準備でもしてなさいよ!」






「……あ、え? あぁ……はぁ……」







次回『ラストバトルに臨む者達』

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