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二十八学期 二十歳な者

 体育祭のリハーサルの結果を見て危機を感じた私達3組。会長に秘密兵器がいると言われ、連れてこられたのは……なんと居酒屋! しかもそこで酔っぱらっていたのは……なんと高校生だった!?






 ――って、やっぱり意味が分からん。え? いつからこの作品って、こんな法に触れちゃうような内容が平然と書かれるようになったんだ……。というか、大丈夫か? 




「……あっ、あのぉ会長? その……生徒っておっしゃってましたけど……その子、

明らかに酔っぱらって……」





「……えぇ。だってこの子、二十歳はたちですもん」




「ん?」


 二十歳? え? なのに、高校生ってどういう事? 高校って普通は、18歳までじゃ……。


 隣にいた水野さんもわけが分からない様子でキョトンとした目で目の前の酔っぱらいを見ていた。すると、状況を全く理解できていない私達の事を察してか、会長が口を開く。



「……この子は、訳あって留年したのよ。高校をね。それで、進級できず二十歳まで来てしまった。こうして……高校生のくせに居酒屋で飲み歩くヤバイ女子高生が誕生した……ってわけ」



「……えへへぇ~。やばいだなんてぇ~、氷ちゃんったら照れちゃうよぉ~」



「褒めてない。後、酒臭いわ……」



「ふぅえ!? おっかしいなぁ……今日は、ラベンダーの香りのシャンプーつけてきたのに……」



 いや、ラベンダー完全敗北やん……。欠片も匂わねぇよ。……マジでこの人、アルコール臭い……。なんだろ、例えるなら飲み会終わりのおっさんの体臭みたいな……。これが、本当にうちの学校にいるなんて……。




「……大丈夫ですか?」



 私の本心だ。いや、正直ここまでぶっ飛んだ人を見たのは、初めてだった。(まぁ今年に入ってからすんげぇ、キャラ濃い人ばっかり見てきてるけど……)しかし、こんな人が体育祭における私達のクラスのジョーカーになるとは、到底思えない。



 いや、というか……無理だろ。



 しかし、会長は違った。私や水野さんが全く期待できないというのを何となく態度で表している事を最初から何となく察していたのか、会長は言った。




「……大丈夫よ。この子、見た目はこうだし……酒カスでアル中で酒乱だけど」



「……氷ちゃん、それ全部一緒だって~」




 いや、笑いどころじゃねぇよ。




「……けど、それでもこの子は……体を動かす事だけは、得意なのよ!」


 会長の真剣な瞳と言葉が私と水野さんに届く。私達は、会長の言ったセリフに何も言い返したりできなかった。何となく……信頼できる。この人の言う事なら何となく信じても良いって思える。そう、思えたのだ。





「……分かりました。会長の言う事ですから、きっとそうなんだと思います」



「……わっ、私も! お姉ちゃんがそう言うなら納得です。その……頑張ろう! 皆で」




「……そうね」



「……そうだね。水野さんの言う通りだ」



 私、水野さん、会長……3人の結束が更に深まった気がした。……そうだ。まだ、体育祭は始まっちゃいない。ここから後、一週間。沢山頑張って……そして、優勝する! 私の秘密をあの《《金髪お寺女》》にだけは絶対、言わせないためにも!





「……頑張りましょう!」


「はい!」



「……そうね」


 私の言葉に水野姉妹も強く答えてくれた。体育祭まで残り一週間程度。少女達の結束は、強まる。





 ……と、そんな激熱な展開がこれから待ってそうな雰囲気で幕を閉じそうになっている時に氷会長が、ふと何かを思い出したような顔で私達に告げる。



「言い忘れたのだけど……ここに貴方達2人を呼んだのは、火彩に会わせるっていうのも勿論そうなんだけど、この子が酔いつぶれてしまった時用の荷物運びとかを手伝ってほしかったの」



「「……え?」」



 私と水野さんが、さっきまでの良い感じの雰囲気を見事にぶち壊した会長の事を少し不満そうに見つめる。すると、会長の隣に座っている酔っぱらいが、ふにゃっとした様子で喋り出す。



「……だ~いじょうぶだよ! いつも1人で帰ってるし……今日だって、きっと…………」




 ――コテン。





 と、赤髪の少女は酒の入ったグラスを片手に眠りについてしまう。その物凄く気持ちよさそうな寝顔に……私は、心の底からツッコミをいれた。




「おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」




 言った傍から寝るなあああああああああああああああああああああああ! 






 かくして、私と水野さんと会長の3人でこの酔っぱらいを運ぶ事になった。しかし、どうやら……あの酔っぱらいの家はここから少し離れ所にあるようで……今日は、仕方なく会長と水野さんの家に泊めてもらう事になった。水野さんは最初、口にはださなかったが、とっても嫌そうな顔をしていた。しかし、会長が同じ部屋で寝かせるというのを聞いて、心底安心した表情を浮かべていた。



 まぁ、そりゃあ嫌だよね。いきなり見ず知らずの酔っぱらいと一緒に寝ろだなんて……。会長も元々知り合いっぽそうだったけど、良いのだろうか……。





 そして、本当に体育祭……あんな人が秘密兵器なのだろうか? そこまで凄そうには見えなかったけども……。しかし、何はともあれ後一週間。やっぱり自分のクラスだけでも沢山練習して強くならないと……! 自分の秘密を守るために!






 後、帰り道に酔っぱらいをおんぶしたかった……。





















         *




 そんなこんなで、厳しい練習の末ついに体育祭本番がやってくる。今日までの一週間の間にクラス内で猛練習を重ね、無事リレーのタイムやその他の競技も良い感じに仕上がった。練習中、同じクラスの子によく「日下部さんって、行事凄く真面目にやるんだね~」なんて、話しかけられたりもした。正直、同じ事を一生言われ続けて鬱陶しいなんて思ったけど……それも今日を乗り越えれば終わり!





「……さぁて、優勝を勝ち取って……女の子達にカッコいい姿を見せつけて……サクッとお持ち帰りしていくとするか!」




 気合に満ちた私。空は、今日も青くて綺麗だった。絶好の体育祭日和。そろそろ、梅雨も近いというのに……こんなに晴れるなんて……これから何か起こるんじゃないか……な~んて。




 と、そんな事をおもっていると後ろから聞き覚えのない人の声が聞こえてくる。



「……日下部さん、おはよう。今日は、とっても良い天気ね!」



「……あぁ、えーっとおはよ……って」



 私は、後ろを振り返って驚いた。そこには、いつぞやの居酒屋で出会った赤髪のツーサイドアップで黒リボンが特徴的な女の子。あの時の泥酔してドロドロの様子だったあの子とは、大分かけ離れたキリッとした目をしていて、姿勢もよく顔色もかなり良かった。更に声も透き通っていてアニメに出てくるような可愛い女の子の萌え声をしていた。





「……え? 火乃鳥先輩? その恰好……だって、酒カスで酒乱でアル中だったはずじゃ……」






「……ちょっ! ちょっとぉ! やめてよ……。その……恥ずかしいじゃない! ……馬鹿」



 照れくさそうに乙女の顔をして目を逸らしながらそんな言葉を言う火乃鳥さん。






 ……え? えぇ!? ちょっ、え!? 




「……火乃鳥先輩」



 アンタ、可愛すぎるだろ。なんだ、その正ヒロインっぷりは……。

次回『覚醒者』

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