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二十六学期 立ち向かう者

 ――それから、私達はクラスの男子と女子5人ずつで集まって、ボウリングをして……カラオケに行き、そして……ファミレスでご飯を食べた。



 まぁ、だが……私が当初考えていたような展開があったかというと……



「……んねぇ~、煌木くぅん? この後、空いてないの?」



「……ははは、ごめんね。僕、これから用事があるからさ」




 全部、あの野郎に持ってかれちまった……。今日の楽しみだったのに……。くっ! こんな事なら私だってドレス着たかった……! なんで、完璧美少女な私は、ダメであんにゃろうは、許されてんだよ! だから、イケメンなんか嫌いなのさ! いつになっても私の前に現れて、邪魔をするんだ!




「……あ、あのぉ…………日下部さん?」



 すると、そんな私に水野さんが話しかけて来てくれる。彼女は、とてもオドオドした様子で私の様子を伺う感じで見てくる。



「……へっ? あっ、あぁ……大丈夫よ。なんでもないわ。それで、どうしたの?」



「その……今日は、とっても楽しかったですね。クラスの全員が来ていたわけではないですけど……でも、こうやって皆で遊ぶ事も良いですね。実は、私……こういうの初めてで……今日、遊んでいて高校に入って良かったなって思えました」




「……水野さん」




「……うっ、運動会、がっ、がが頑張りましょう! くっ、日下部しゃん! 大丈夫です。私達ならきっと、木浪さんや禅昌寺さん達に勝てます! 何と言っても3年生には、お姉ちゃんもいるんでしゅ! 私達ならきっと……きっ、きっと勝てます!」





「……」



 良い子だなぁ。ホント……。服を選ぶ時もそうだったが……この子は、いつも誰かの為に頑張れる……そういう子なんだなぁ。



「……くふふ」



 少し、笑ってしまう。こんな可愛い子に励ましてもらえる事が……何より嬉しい。



「……ありがとう。水野さん。……もう大丈夫よ。……今日は、とっても楽しかった……。それに……そうだね。勝とう。体育祭」





「はい……!」




 私達は、共に戦っていく事を決意する。勝つために……。





 ……それから、私の正体がバレないようにするために! 負けるわけには、いかない。私の完璧美少女としての学園生活がこんな所で終わらせるわけには、いかない! 勝つんだ! 必ず……!  皆で!






















 しかし、現実はそうはいかない。GWが終わっていつも通りの平日が訪れる。学校ではこの時期から体育祭の予行やリハーサルみたいなのが増えて行く。皆がどんどん行事の方に意識が向いて行く中……運動会リハーサルの全学年合同のリレー大会が行われた。



 これは、2時間連続の体育の時間を使って行われたもので、名前の通り全学年が校庭に集まって校庭を1人半周ずつ回るリレーをするというものなのだが……この時、私達3組は、他のクラスとの圧倒的格差を思い知る事になる。




「おーほっほっほっ! 頭が良いだけの平民たちぃ! 残念でしたわねぇ! 優勝は、私達2組が頂きますわ! おーほっほっほっ!」




 1年生のリレー、一番前を走っていたのは2組の安国寺さん。そして、その次を走っていたのは、4組の……。




「……うふふ、2番とはいえ……他者を負かすこの感覚、たまりませんわぁ~。うふふふ」



 愛木乃ちゃんだった……。この2人、こんなに悪役って感じの子達だったっけ? 特撮とかに出てくるような典型的な悪役の発言だぞ。あれ……。



 いや、そんなツッコミをしている場合ではないか。なぜなら、彼女達のずっと

後ろ手走っているのは、我らが3組の水野さん。あの悪役連中のだいぶ後ろの最下層で走っていた。





 まさか、ここまで差が出るとは……。私達3組も全く運動がダメというわけではなかった。ちゃんと足が速い奴もいる。ただ……それ以上に単純な戦力差があり過ぎる。他のクラスにはそれ以上に速い奴がいたり、運動神経が良い人が沢山いたりする。そのせいで……相対的に私達のクラスの順位が下に……。





 結局この後、水野さんからバトンを受け取って私も走るのだが……それでも順位は全然ひっくり返らなかった。



 しかも、驚きなのは……これが私達1年生だけの話かというとそうではなく……上級生達の間でも……3組が一番が弱いという惨状だった。




 いや、うちのクラスよえぇ……。昨日の夜、あんなにカッコよく青春って感じの事を言った後にこれって……。だっせー。ダサすぎる。……いや、そして弱すぎる。昨日のあの言葉が完全にフラグになっちゃったよ。うわぁ、どうしよ……。え? これ、このままだとまずくね? 私の正体、バレね? この作品、終わるんちゃう? 完璧美少女の私の正体がバレて……連載終了じゃね? まだ、10万文字にも達してないのに……。え? やばくね?




 と、まぁ……そんな事を密かに心の中で思っている所に1人の人が私に話しかけてくる。




「……まずい事になってきたわね」




「会長……!」



 氷会長が、私と水野さんのいる所にやって来て、とても深刻そうに語り出す。



「……まさか、ここまで他のクラスとの間に戦力差が生まれるとは……。私も予想外だったわ」




「……どっ、どうしよう! お姉ちゃん」



 水野さんが、とても頼りなさそうな甘えた感じの声で姉の事を呼ぶと……会長はそんな水野さんの発言に対してクスッと笑ってまだまだ平気そうな顔のまま答えた。




「……大丈夫よ。私達には、まだ勝利を手にする資格がある!」





「……え?」


 マジかよ! この絶望的な状況でか!? さっすが、私の見込んだ会長だ!






「……それは、どういう事なんですか?」



 私が、会長に尋ねてみると彼女は、何か企んでいるような不敵な笑みを浮かべて言った。



「……私達3組には、秘密兵器が存在するのよ!」





「……え!? えぇ!?」



 いや、何その……スポーツ漫画みたいな展開……。これ、ただのラブコメなのに……。

次回『飲酒者』

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