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二十一学期 闘争者達

「……日下部さん! おっ、おはようございましゅ……!」



「あら? 水野さん。おはようございます。もう風邪は大丈夫そうなの?」



「はい! 何とかその……治して来ました」



「そっか~。それなら良かったわ。……あー、それでその……かいちょ……いえ、お姉さんも元気になったの?」




「はい! お姉ちゃんも今日から普通に学校来てます!」



「そっかぁ。良かったわ。挨拶週間終わっちゃったから……朝会えなかったし心配しちゃって……」



「あはは。大丈夫ですよぉ。お姉ちゃん、私よりも体頑丈ですもん」



「……あはは」


 いつも通りの日常が戻って来た私達が、早朝の廊下を一緒に歩いていると、たまたま廊下に貼られた一枚のポスターを発見する。




「光星高校 体育祭」の文字が書かれたそのポスターには、リレーを走る5クラスの生徒達の姿が描かれた絵が張られてあり、その下には運動会の詳細日程が書かれていた。



 私と水野さんは、そのポスターをたまたま見かけて、ほぼ同時に呟く。



「……そろそろ、体育祭だね」

「……そろそろ、体育祭ですね」



「……え!?」

「……はま!?」


 私達は、お互いにびっくりした。声が重なり合うだなんて……思ってもいなかった。私は、少し笑って水野さんの方を見てみる。


「……重なっちゃったね~」


 すると、そんな私の反応に対する水野さんの様子は……なんだか、少し恥ずかしそうな……まるで、秘め事を暴かれた時の乙女のように頬を赤らめた表情をしていた。




「……はっ、はいぃ……」


 あれ? なんか、変だな。もしかして、まだ熱あんのかな? あんまり無理させない方が良さそう。


 私は、そんな不自然な様子の水野さんに少し心配しつつ、教室までの残り少ない道のりを歩いて行く事にした。しかし……どうしてだか、さっきまでのように会話はなかった。無言のまま私達は……教室までの道を一緒に歩き続ける。



 うーん。どうしちゃったんだろうなぁ? やっぱり病み上がりだからまだちょっと辛いのかな? まぁ、私はちょくちょく挨拶で他の人から声をかけられたりするから……あんまり気まずさを感じないけど……。




 などと考えていると……私と水野さんの教室である1-3の教室の前に到着するや否や教室の向こうから私のよく知る人の挨拶が聞こえてくる。



「……おはようございます。日和ちゃんに瑞姫ちゃん」



「……ん? あぁ、おはよう。愛木乃ちゃん」


 隣のクラスの愛木乃ちゃん。彼女が、私達の元へ歩いて来て話しかけてきた。



「……今日から体育祭の練習が始まりますね」



「……そうだねぇ。お互い頑張りましょう」



「……えぇ。負けませんよ!」


 この学校の体育祭は、クラス対抗。なので、別のクラスである愛木乃ちゃんとは、敵同士だ。私達は、不敵な笑みをお互いに浮かべながらお互いに負ける気のない事を目と目で伝え合った。




 いやぁ、それにしても体育祭かぁ。前世じゃ散々だったからなぁ……。なんといっても、運動音痴のせいで……リレーの時は、いつもいつもクラスの人達から暴言の嵐。何をやっても足を引っ張っている気しかしなかったし……いやぁ、陰キャにとっては最悪のイベントだよねぇ。




 ふふふ! しかぁし! 今の私は違うッ! このスポーツテストで高記録を叩きだした日下部日和は……一味違うってわけよ! もう前世の頃みたいにむごい思い出は作らない! 日頃のトレーニングの成果が現れる時だしね!





 いや、むしろ……むごい思い出どころか……この運動会で……更に余計に女子達からの人気を集めて…………。



「……きゃああああああ! 日下部さん素敵よぉ!」


「カッコいい!」


「……私にそのバトンをちょうだぁ~い!」


「いやぁん! 私よぉ!」 


「何言ってるの!? 日下部さんのバトンを貰うのは、私なんだから!」





 ……みたいな事になっちゃったりして! ぐふふふっ! いやぁ、モテる男は困っちゃうなぁ! って、私今は女だったぁ~。ぐふふふ!




「……あら? どうしました? 日下部さん」



「……ふぇっ!? べっ、別に! 別に何にもないけど……」



 愛木乃ちゃんが、そんな私の事を怪しげにジロジロ見てくる。……うっ、やばい。バレる。愛木乃ちゃんって……たまにドSで鋭いから気が抜けないよなぁ……。




 と、そんな時だった。今度は、私の後ろから挨拶が聞こえてくる。



「……皆さま方~、おはようございまし~」




「……ん?」


 振り返るとそこには、高飛車なお嬢様って印象の金髪美少女……



「……あら、薬師寺さんおはようございます~」


「金塊寺さん、おはようございましゅ」


「……うふふ、白鳥神社さんおはようございます」



 私、水野さん、愛木乃ちゃんの順番でお嬢様に挨拶をする。だが、私達の朝の挨拶に対してそのお嬢様は、とても不機嫌そうに答えるのだった。




「……金閣寺です! 金閣寺・F・恋金です! ていうか、1人だけ寺ですらない人いるんですけど! どうしてわたくしのお名前を貴方達、覚えられないのですの!」



「……ごめんなさい。悪気はないの。ただ、人の名前を覚えるのが苦手なだけで……法隆寺さん」



「……わっ、私もごめんなさい。金婚寺さん」



「……申し訳ございません。二条城さん」



「……金閣寺です! アナタ達、わざとやってるでしょう! 少なくとも……貴方は、絶対わざとですわ!」


 薬師寺さんが、愛木乃ちゃんの事を指さしてそう告げると、彼女は全く意に返さず、いつも通りにこやかな様子で告げるのだった。




「……うふふ、あらぁ? そんな事なくてよ」



「……そんな事ありまくりよ!」



 怒った薬師寺さんは、そのままきっぱりと私達に告げるのだった。



「……もう良いですわ! こうなったら……貴方達のその腐った根性……体育祭でわたくしが叩き潰して差し上げますわ!」



 いや、叩き潰しちゃダメでしょ……。




「勝負ですわ! 体育祭、どの組が勝つか……」



 薬師寺さんのその言葉に最初に乗ったのは、意外にも愛木乃ちゃんだった。



「……面白いですね。その勝負、乗りましょう!」



「あら? よくて? 体育祭で1位になったクラスが、負けたクラスに一日何でも言う事を聞かせる事ができる……これでどうでしょうか?」



「……乗りました! その勝負、この木浪愛木乃! 絶対に負けません!」


「……おーほっほっほっ! 良いですわ! 望む所です。しかし、勝つのはこのわたくしです!」




「……いいえ、私です! 貴方のような方を負かして丸一日中屈服させる事が出来るだなんて……快感以外のなにものでもありませんし!」



 愛木乃ちゃん、本音漏れてるよー。いやぁ、しかし……勝負かぁ。正直、面倒だな。そんな事しないで私は、ただ学校中の女の子達にイケメンアピールをしたいだけなのに……。



「……日下部日和さん! 貴方も当然参加しますわよね? うふふ、何と言ったってわたくしが勝った時には、そこにいる木浪さんに全てを吐いて貰うつもりでいますから……おーほっほっほっ!」



 ……は?



「……くっ、くさかべしゃん! こんな事無視して私達は、私達で……」



 水野さんが何か言っていたがそんな言葉、今の私には聞こえない。私は、目の前に見える興福寺さんの事を睨みつけて、言った。



「……やるに決まってるじゃない! 首洗って待っていると良いです! 勝つのは、私……いいえ! 3組よ!」







 かくして、女達による熾烈な戦い(体育祭)が幕を開けるのであった……。




次回『更なる秘め事に困惑する者達』

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