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二十学期 優しき者

「それでは、今日のポスター作り……みんなお疲れ様! 運動会関係、これからどんどん忙しくなってくると思うけど皆で頑張っていきましょう! というわけで、皆お疲れ様!」



「「お疲れさまでした~」」



 ポスター作りを終えたクラス委員達は、続々と鞄を持って帰りの支度の準備を始める。生徒達が、和気あいあいと話しながら暗くなった空の下へと出て行く中で……私、水野氷はぐったりとしていた。





……はぁ、終わったぁ……。終わったけど……。




 結局、あれから……日下部さんに英語のノートの事を聞けなかった。あぁ、どうしましょう……。瑞姫のためにも何とかしてあげなきゃなのに……。





 そんな事を考えながら私は、クラス委員のメンバー達が帰っていく所を見届け、体育館に誰もいなくなった所で私は、体育館の鍵を閉めて、職員室に持って行く。先生達から感謝の言葉を受けた後、そのまま私は帰る事にした。






 ……はぁ、結局言えなかった。瑞姫になんて言えばいいんだろう……。




 家へ帰る途中で私は、そんな事を考えていた。私は、帰り道に歩きながらスマホの画面をチカチカつけて見ていた。





 瑞姫とのトーク履歴。頼まれ事に了解と返事を返しておきながら何も成し遂げられなかった。



 今まで一度も約束を破った事は、ないが……今日それも終わってしまう。








 正直に謝るしかないかぁ……。うーん。やっぱり、私……あの子苦手なのよねぇ。




 そんな事を考えている時に私の目にコンビニの姿が写る。




 気分転換に、コンビニで甘い物でも買おうかしら……。ちょっとリラックスしたいし……。


 私は、そのままコンビニへ真っ直ぐ入っていく……。そして、いつも買っているスイーツが置いてあるコーナーまで真っ直ぐ歩いて行き、そこに置いてある「杏仁豆腐」を購入した。



「ありがとうございました~」



 店員さんの言葉が後ろで聞こえてくる中、私は家で食べる用の杏仁豆腐を手に持ちながらうっきうっきの気分でコンビニから出て行こうとする。



 うふふ……! これよこれ! やっぱりこういう落ち込んだ時には、こういう甘い物が必要よねぇ! ふふっ! 瑞姫の分も買っておいたし……まぁ、モノで釣るってわけじゃないけど、これで少しは許してもらえると良いのだけどねぇ……。




 そんな事を考えながら私が、コンビニから出て行こうとしたその時、私がコンビニのレジの奥のコピー機がある方を偶然、たまたま見てみると、そこに見知った人の姿見えた。




 あら……?



 たまたま見かけたその人の姿に私は、少し気になってコピー機の方まで駆け寄ってみる。




 どうして、ここに日下部さんが……?



「……?」


 私が近づいて来た事と私の視線に気が付いた日下部さんが、こっちを振り返る。そして、コピー機から出てきた紙に気付いて、ファイルに入れながら話しかけ始めるのだった。




「……会長? お疲れ様です!」



「……えっ、えぇ。お疲れ様」



 そこで、私達の会話は一度途切れてしまい、シーンと静まり返ってしまう。日下部さんは、黙々と何かをコピーし続けていて、それを一枚ずつファイルの中にしまっていく。そんな時、私の目の中に日下部さんの印刷していた紙が見える。



 ……ん? あれ? 



「……日下部さんは、ここで何を……?」




「……あっ、えーっと……友達に……授業のノートを持って行ってあげようと思って……」



「え……? 友達って……」



「実は、最近風邪で休んでいて……同じクラスの水野さんっていう女の子なんですけど、優しくてカッコよくて……良い子なんですよ。クラス委員でも一緒で……」




「……!」





「……ちなみに、日下部さん? その……英語のノートって……瑞姫から頼まれてやっているの?」



「え……? 違いますけど……まぁ、友達の為になるかなぁと思って……もう2日も学校来てませんし……ついでにお見舞いとかしたら喜ぶかなぁって思って……」




 え……? この子……。



 私は、日下部さんの言ったその言葉に少し心が動かされた。そんな中でコピーを続ける日下部さんは言った。



「後で、これが終わったら何か甘い物でも買ってあげようかなと思ってたんですよ。会長のそれ……美味しそうですね。私も後で水野さんに買ってあげようかな……」



 彼女は、そんな事を言いながら今度は、数学のノートを印刷し始める。私は、そんな彼女の姿を見て、こっそりと買っておいた2つ目の杏仁豆腐を鞄の中に隠した。



 あぁ……負けた。私は、少しだけこの子への認識を変えるべきなのかもしれない。この子は、友達思いの良い子なんだ……。友達の為ならそうやって気遣いのできる心優しい温かい人だったんだ……。


 私なんかよりずっと……素敵な人……。







 ――トクン……。





 あっ、あら? 何かしら……これ? 私、どうして……え? いえ……そんなはずないわ。もしかしたら……瑞姫の風邪が移ってしまっただけよ。あはは……。




 しかし、そんな中でも私は、日下部さんの無言で印刷を続ける姿に心を打たれて、彼女のファイリングを手伝って上げる事にした。そして、改めて今度こそ……瑞姫の要望を彼女に伝えてあげる事にした。




「……あのね、日下部さん……実は今日、瑞姫からメールで言われている事があって……ずっとそれを伝えられなかったのだけど……実は、実はその……今日……」




 と、要件を最後まで言い切ろうとしたその時だった。突如、コンビニのドアが開き、外から1人の少女が姿を現す。




「……あれ? お姉ちゃん? どうしてここにいるの?」


「……え?」


「え? お姉ちゃん?」


 日下部さんが疑問の声を上げている中、私が後ろを振り返ってみると、そこには部屋着のままコンビニまで来ている瑞姫の姿があった。



「……あなたこそ、どうしてここに? だって、今日は風邪で休むって……」




 瑞姫は、にっこり笑って心底嬉しそうに語った。



「……うん! 実は、さっき熱を測ったら平熱に戻ってたの! もう治ったんだ! ついでにポカリとか切れちゃったし……コンビニくらいならもう1人で行けるし……と思って…………え?」



 瑞姫は、そこまで来て私の後ろで黙々とノートのコピーをとっていた日下部さんの姿が目に入ったのか急に今度は、顔を赤面させだして、慌てた様子で……はわはわと口をぱくぱくさせる。




「……にゃ、にゃにゃ……にゃんで!」



「あら? 水野さん、元気になったのならよかった。丁度いいわ。今日、これからお家に寄って行こうと思っていて、ノートを届けてあげようと思ってたんだ。……って、あれ? どうしたの? 水野さん」




 瑞姫は、自分が普段よりもかなりラフで髪の毛もボサボサの状態で来てしまった事に恥ずかしくなってしまったのか、赤面させた状態で固まってしまい、そのまま……コテンと後ろに倒れてしまった。




「……はう」


「……みっ、瑞姫!? ちょっと! 瑞姫!?」



 突然、恥ずかしさのあまりに気絶してしまった瑞姫に私は、大慌て。その隣では日下部さんも何がなんだか……分からない様子で……瑞姫の事を心配しだす。




「……瑞姫!? ちょっと! しっかりしなさい!」



「水野さん!? 大丈夫?」




 しかし、私達の声に反応する事はなく、瑞姫は1人……朦朧とした意識の中でずっと同じ事を連呼していた。





「……みっ、見られた。くしゃかべしゃんに……私の恥ずかしい所を……はうぅ……」




 それから、結局この後私は、日下部さんからノートのコピーを受け取り、瑞姫を

家まで運んだ。そして、治りかけていたはずの風邪ももう一度悪化させてしまい、瑞姫は、もう一日休む事となった。







 しかも……。




「私まで風邪をひくとか……もう最悪よ!」



 姉妹揃って学校を休み、家で寝ている事になった。私も瑞姫も熱が8度。完全に風邪で、明後日から2人揃って学校に行く事ができたのだった……。

次回『闘争者達』

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