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十一学期 打ち明けし者

 ──ジキルとハイド。ある理知的人の中に狂人的なもう1人の人格が宿る事から始まる物語だ。所謂、二重人格ってやつだ。



 現実世界でもこういう人は存在する。ある種の精神病のようなものらしいのだが……。





 ──もしかしたら、水野さんも……。




 そう思いながら私は、水野さんの事をおんぶして、交差点へ通ずる帰り道を歩いていた。



 私は毎日、早朝走っているし、体も鍛えている。それに水野さんは背も小さいから軽い。



 家はこの近くと言っていたし、とりあえず別れ道の交差点までは運んであげよう……。それまでに起きてくれれば良いけど……起きなかったら最悪何処かの公園のベンチで寝かせてあげるか。



 すると、ふと自分の背中の上でゴソゴソと何かが動いた感じがする。さっきまでピッタリと止まったままで動かなかった水野さんの体が動き出した。



「……おっ?」



 もしかして起きたか? そう思った私が自分の背中の辺りをチラッと見てみると、とても眠たそうなウトウトした目をしていた。水野さんがボケボケ顔で目を擦りながら少し高めの可愛い声でおんぶしている私に言う。



「……あれ? 私……。ここは?」



「……気がついた? 大丈夫? 怪我はない? 水野さん?」



「……くさ……かべさん?」



 少女はとても朧げな表情で目をしょぼしょぼさせていた。しばらくすると、水野さんは今の状況を理解したのか、ハッとなって驚き始める。


「……なっ、なななななな! なんで私、こんな事に!? くっ、くくくく! くしゃかべしゃんの背中の上!?」


 なるほど。やっぱりかぁ……。まぁ、《《いきなり》》目覚めたらそうなるよねぇ。


 私は、水野さんに優しく教えてあげる事にした。さっきあった事。水野さんの突然の覚醒。全てを彼女に話した。




 きっと、こう言うのは信じられない事でも本人にしっかり伝えた方がいいに決まってる。それが、きっとこれから先のこの子の長い人生の中で大事になってくるだろうし……。少し言い辛いけど……正直に何があったのか、気づいた時に伝えるのが一番よ。もう、《《前世の頃みたいな失敗はしたくないし……。》》



 全てを正直に話し終えた私は、水野さんの反応を伺っていた。彼女は、特に何も言わずに黙って下を向いている。




 ──大丈夫だろうか? 自分の変貌っぷりにショックを受けていないだろうか?







 すると、少しして水野さんは私の背中に乗っけられたまま少しだけ話し始めた。



「……最近からなんです。最近、いつからなのか正確なのは思い出せないんですけど、ある時急に……私の中にもう1人の自分が生まれました。私は別に家庭環境が悪いとかそういう事もなく、学校の友人関係も普通でした。……けど、ある時から私の中で異変が起こって……何故か人格が2つになったんです。いつもの私と……違う私。みんな、私の知らない私を怖がるんです。その時から段々、前に出て喋ることが怖くなりました。前に出て喋って誰かと衝突したら……私の中のもう一つの私を起こしちゃったら……それが怖くて……私……」




「……なるほどね。そういう事」



「……そんな時に日下部さんと出会って……この人にだったら言っても良いかもって思えたんです。私と仲良くしてくれるから……。私の事を2度も助けてくれました! それが嬉しくて……だから……。ごめんなさい。嫌でしたよね。こんな二重人格の私なんて……自分で自分をコントロールできない自分なんて……」











「……喋ってくれてありがとう。水野さんって普段オドオドしてるけど、すっごく強いんだね。きっとそのもう1人の水野さんは、水野さん自身の強さが具現化したものなんだろうね。凄いなぁ。あの時、すっごくカッコよかった」



「……え?」



「……その人格で悩んでいる中、私に話してくれてありがとう。こういう悩みってさ、まず話すところからだと思うの。私なんかで良ければだけど……これからも水野さんと色々な事話ししたいな!」





 背中に乗っていた水野さんの体が小刻みに震え出したのが分かる。そして制服の背中が彼女の涙で濡れだす。泣きながら水野さんは言った。



「……ぅん。日下部しゃん……ありがとう……こんな……こんな私のために……おんぶまでしてくれて……」




「……ううん。良いのよ」





 ──報酬は、しっかり受け取ってますから。







 なんせ、ぐふふ! ……この背中に若干、当たってる小さな小さなお乳。にゅふふ! そしてこの太ももの感触! ぐふふ! むしろこれからもおんぶさせて下さい! 喜んで貴方の肉タクシーになりたい位です! 






 私達は、そうやって交差点までおんぶしながら歩いていった。2人の中では……幸せな気持ちがいっぱい広がっていたのだった……。

次回『才ある者』

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