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【SideY】焦る男

「本当になっちゃんじゃーん。」


ここ最近現場で聴く間延びした声が愛しい彼女の名前を呼んだ。

何故、とは思った。というか、何故が多すぎて頭が処理しきれていない。


「遅えよ友優。」

「ごめんてー。ちゃんと来たんだから許してー。」


彩子さんの元彼が彼を咎めても、当の本人は悪いとは思っていないらしい。


「松田さん、コイツと知り合いですか。」

「ん?卓斗は地元が一緒の友達だよー?」


呑気に喋っている松田さんの言葉を聞いて一先ず放置を決定。

優先すべきは、腕の中でまったく動かなくなったなっちゃんだ。呼吸を忘れたように微動だにせず、瞬きもせずに一点を見つめている。

その姿に更に腕に力が入ったのに、彼女は気付かない。


「なっちゃん?」

「………。」


耳元で呼んでも反応がない。不安と焦りから嫌な汗が背中を伝う。

こんな時に、こんな時だからこそか、彩子さんと飲んだ時の会話を思い出した。

嫌な予感しかしない。


「にしても、本道君から写真見せてもらった時はビックリしちゃったよー。なっちゃんも来てたんだねぇ。」

「…久しぶりね。」

「あ、ちゃんと覚えてくれてたねー!何も言わないから忘れてるのかと思ったよー。」


やっと発した言葉は掠れていてとても小さい。それでも反応が返ってきたのが嬉しいのか、松田さんはニコニコしながらこちらに手を伸ばす。

それを全力で叩き落とした所でなっちゃんが俺を見上げる。上目遣いのなっちゃん可愛い。

じゃなくて。


「なんだ友優、那智さんと知り合いだったんだ。」

「うん!元カノ!」

「…は。」


満面の笑みで告げられた言葉に更に不安が募った。視線だけで彼女に訪ねたが、今度は俯いてしまう。

沈黙は肯定だ。


「なんでこの前それを教えてくれなかったんですか。」

「んー?いやぁまさか本人だとは思わないじゃん?見た目少し変わってたし?」


もう一度伸ばされる手から、今度は彼女を隠すようにして逃れる。「なんで」とか「どうして」とか呟いてるなっちゃんは、俺の服を掴んで震えていた。

マズい状況だと判断した彩子さんの元彼が松田さんを連れていこうとするが、なかなか上手くいっていない。それどころか、「このまま皆でご飯しよーよー」なんて巫山戯たことを言い始める彼に諦めの表情を向け始めた。


(クソッ、俺が一本早い電車になんかしなければ…)


いや、そうしたからこそ今なっちゃんを守れていると考えよう。

もうこのまま無視して彼女を引っ張っていこうかと思い始めた時だった。


「ここまで来て会うとかさ、もう運命なんじゃなーい?」


震えの止まった彼女の瞳から涙が溢れていた。

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